レビュー|ケーキの切れない非行少年たち 2023.11.4
概要
精神科医が少年院での経験をもとにして書いた本。犯罪を総なめにしてきたような少年たちを診察する中で、彼らが反省する以前の問題を抱えており、認知の能力に乏しいことに気付く。ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動性障害)と言ったメジャーな発達障害の陰に隠れる、知能障害の人たちについての支援において、見る力、数える力、写す力、そういった認知のトレーニングを提唱している。
特に気になったこと
1
知的障害の少年は融通が効かなく、こだわりの強い一面があり、日常生活でもハンディを負うことになるという説明がある。
俺のことじゃないかと思った。短気だし、無計画に動いてしまうこともあるし。一つのことの集中すると周りが見えなくなるし、非効率でも自分のやり方に拘りがちだし。それで受験勉強もものすごく時間を投下することになったし、仕事で要領悪いなと思うことも多かった。そういうのを抱えながら生きてるんだなと。
2
教育の文脈では、自己肯定感を高めることばかりが注目されがちだが、本当に必要なのは自尊感情ではなく正しい自己認知であるという。
この類の話はデカルトもしていた。「自己を知ることの最も少ない人たちこそ、不当に高慢になったり卑屈になったりしやすい。」(デカルト、『情念論』谷川多佳子訳、岩波文庫、141頁。)自分に何が備わっており、何が出来て、何が好きで、どこに伸びしろと克服すべき課題があるか。それを巷では自己分析と呼んでいる。「汝(あなた)自身を知れ」を言ったソクラテスの言葉が、少年院の子供たちと向き合った宮口さんを通じて表現されているのかと思うと、時代ごとに形を変えて表現され続けることこそ”本当のこと”のような気がしてくる。とにかく俺も自己分析しよう。
3
非行少年のエピソードを見て、ひやっとしたことも多かったけど、宮口さんは希望を見ている。
勉強やスポーツだけでなく、評価の物差しが多元化すればもっと良い教育になるとも思うけれど、少なくとも小学校までの勉強は出来るか出来ないかでそこから見える世界は全く違うと思うから、勉強が出来なくてもいいとは思わない。誰だって勉強出来たら嬉しいし、人に教えたり、役に立ったり、認められたりすることは、ふふん、という気持ちがするものだよね、と最後にほっこりした。俺も学びを人の役立てて、ふふんしたいなと思った。