踊りに行こうぜ 2018
2018年の冬、パーティで留学生の友達が出来た。立食パーティみたいな社交の場は初めてで、どうしたらいいかわからない。周りは知らない人だらけで、でも皆知り合いなのか、陽キャの集まりなのか、楽しそうに話している。会話に耳を向けると、出身やら専攻やら話しているから、きっと皆が皆知り合いという訳ではないのだろう。ごった返す雰囲気、陽気に話す人たち、並べられた料理、本気を出したパーティーにおののきながら、”Hello”と近くにいた人に話しかけた。15番の彼は気さくに話してくれ、横にいた女の子と3人で一通り話した。出身とか、勉強何してるとか、日本はどう、とか。一通り話して会話は終わって、15番の彼は食べ物を取りに行くね、と去って行った。
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おそるおそるだったけど意外と話せるもんだな、という安堵と、そうか、これが社交だとしたら案外つまらないかもなと思いつつ、せっかく来たんだから何か収穫を得て帰りたいとも思った。そうだ、ロギンは来ているのかな。前にomochi clubで話をして、留学生が集まるバーで一緒に飲んだ人。フランスから来たと言っていた。ジュースをもらいに並びに行った。
紙コップを片手にきょろきょろと辺りを見回している人がいる。知り合いを探してるというより話してる人を探してる感じだ。こういう人と二人でゆっくり話したいかも。さっきの”Hello”はちょっと堅い気がして”Hey”と話しかけた。赤いTシャツの彼が振り返る。目を丸くした後、少し微笑んで、名前はティモンだと教えてくれた。俺がニーチェを知りたくて大学に来たんだ、という話をすると”eternal returnだよね”と少し永劫回帰について話した。死んでもまた人生がループする、それが無限に続くという仮定の話。生物学を勉強しているのだそう。人間の行動に興味があるらしい。話をするのも人の話を引き出すのも上手で、お茶目でユーモアがあった。関西人みたいな、ややもすると誰かを傷つけてしまいそうなお笑いではなく、誰も傷つけないユーモア。
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続々とティモンの知り合いらしき人たちがやってきた。男の人も女の人も、皆社交的だった。ティモンは誰が来てもあたたかく迎え、目を合わせて話を聞き、笑いながら自分の話をしていた。特に女性の気を引くのが上手で、茶化したりふざけたりしながら、楽しそうだった。俺もちゃっかり挨拶して、Facebookを交換するなどした。堅実で実直そうなフランス人トマ、陽気なムードメーカー皆のお姉さんティオーネ。鼻の高い留学生たちが入れ替わり立ち替わり目まぐるしくて、ここは外国だなと微笑んでいた。その場にいるだけで面白かった。こんなことってあるのか、と嬉しかった。
怒涛のティモン知り合いズは他の友達と一緒に去ってしまい、ティモンと俺が残った。とにかくずっと話していた、気がする。手巻き寿司を一緒に作ったり、sake(日本酒)をもらいに行ったりした。ティモンはう〜〜んと顔を顰めていた。
パーリィピーポーたちがクラブミュージックを流すまでは、ろくにデザートも取りに行かなかった。他の人の所に行かなくて大丈夫なのかとどもりながら聞くと、大丈夫だと笑っていた。音楽がかかり、踊り出す留学生。ワクワクして目を輝かせるティモン、戸惑う私。おいおいどうしたらいいんだよ、と辺りを見回す。「踊りに行こうぜ!」と誘われて渋々ついていくも、ティモンはもうそこら辺で楽しそうに身体をうねらせている。困ったなと立ち尽くしていると、目の前で華麗にステップを踏む留学生がいて、俺もその人の真似をして革靴でぎこちないステップを踏む。名前を聞いた。ジュリエットと言うらしい。ジュリエット?大層な名前だ、パリから来たらしい。建築学生のようだった。そこにティモンも来て、ジュリエットが赤いシックなトップスを着ているのを見て「俺たち今日は気が合ってるな」とニヤリと笑った。おう!知り合いだったのか!と驚いてると、「ダンス、楽しんでんじゃん、いいじゃん」とティモンは少し嬉しそうに言った。恥ずかしかった、人前で振り付けもなしに即興で踊るなんて。
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そんなこんなで会は終わり、俺はロギンたち、バーで酒を飲む勢につかまって、ティモンたちとはお別れを言えなかった。彼らを探してみるも見つからず、またキャンパスで会えたらいいなあと思いながら、ロギン達とバーに行く。