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レビュー|アキラとあきら 2022.11

映画ハイライト
「誰にでも宿命というものがあるのなら、それはどんな風に乗って現れ、どこへ僕らを運んでいくのだろう」で始まり、クライマックスで「全部この時のためにあったんだ」と宿命の最中でそれに気付く。

 成長した山崎が提出した稟議書には承認の印が押されている。「お前の経験、無駄じゃなかったと思う、いい稟議だった」と言葉を残して去って行く背中。その後、水島が慌てて来て我に帰る感じもいい。

1
 情に厚過ぎるあまり、会社の利益より顧客の利益を優先してしまう山崎瑛。その彼が自分のしたことを一ミリも後悔してない所は、なんて言うか、突き抜けているなと思ったし、それもありなのかなと思ってしまう程だった。
 ニューヨークから手紙が届くシーンはあまりに良かった。仕事をしていてよかったと込み上げてくる瞬間、疲れなんで吹き飛んでしまうような瞬間、また頑張ろうと奮い立つ瞬間、であるから。「行ってきます」と颯爽と外回りをしに行く山崎がカッコよかった。遅くまで残って稟議書を書く山崎みたいになりたいと思った。

 でも、上司に銀行員とはどうあるべきか説教するのは流石にまずいだろとも思った。”確実性の上司”にも保身以外の信念があった訳だし。でも、信念がぶつかる音はこうも気持ちがいい。そこには彼らの経験と人生と、そこに裏打ちされた思考がある。その人がその人であるということは他者との避けられない対立によっても明らかになる。信念があるというのはめちゃくちゃ魅力的だ……

2
 山崎は福山で、ただ理想を掲げるだけが銀行員じゃないことを学んだんだろうな。力になりたいと気持ちだけが先走って、会社に承認を得られなくて頭を下げるシーンと、会社に承認をもらえるような事業計画を経営者と練っているシーンが対照的だった。経営者のおじさんの態度も見るからに違っていた。あなたの力になりたいです、と態度で示し続けていれば、それはきっと返ってくる。信頼とはこうして築かれるのだなと思った。

 福山から帰ってきた後、山崎は東海郵船の担当として綿密な計画を立てる。確実性の上司を頷かせたのは都合のいい筋書きじゃない。ちゃんと根拠があるという所に痺れた。
 それに、二流の事業計画を持つ一流の経営者と一流の事業計画を持つ二流の経営者なら、後者に投資すべきだという階堂の言葉が響いてくる。一流のバンカーならいくらでも成長の余白がある。

 山崎と同じ部署で歓喜する後輩・水島に対して、驕らずヘラヘラもせず「はい」と静かに微笑んで答えた所、よかった。優秀な後輩を気遣いながら、先輩として実力を遺憾なく発揮している所もカッコよかった。こういう大人に、こういう先輩になりたいと思った。実力があり、懐が深く、情に厚い。質実剛健で、あたたかさもあるような人。優しい・丁寧・お人好しだけじゃない人になりたい。

3
 話が逸れるけど、弟の龍馬が社長になるというのがどうにも解せない。どうして常務・専務たちはそれを認めたんだろう。血族による経営じゃないとダメだったんだろうか。彬が社長になったのも、そういうものとして理解しないといけないのかなと少し疑問だった。リアルなんだろうか。それともお話的な筋書きだったんだろうか。

 連帯保証付きじゃ大日麦酒がリゾートホテルを買えないというのも俺の頭では理解出来なかった。あのスキームの凄さについてもっと知りたいと思った。

 それに、会社員として働いていなければ、山崎がNYから手紙をもらうシーンで泣いていたとしても、それは上っ面の共感だっただろう。よく玄関のところで座り込まなかったな、すげえな、と思ったくらいだ。

4
 「おい、お前は辞めんな」とただ山崎を止めにきた階堂と「通った!」と気持ちを爆発させる山崎に友情を感じた。仕事の友情ってアツいなと震えた。ビジネスで心が沸騰するなんて味わってみたいと思った。専務の誘いを断って東海郵船の担当になった山崎に「お前、専務に誘われてたんじゃないのかよ」と呆れ顔の階堂と「不満なのかよ」と笑う山崎。いや、本当によかったな。

 稟議が通って席に戻りながらガッツポーズする山崎も好きだ。よくやった、と先輩に言われて無表情で会釈する階堂とはこれまた対照的な振る舞いだ。直情的で理想を追い求め、人を大事にすることを第一優先とし、力の限り突き進んでいく山崎……俺は階堂ってより山崎に近いなと思った。でも、山崎のような熱い男は冷ややかに現状を見通すクールガイを求めている。良いコンビだ。

 階堂がクールガイとは言え、叔父たちに土下座するシーンは、胸に秘めた熱さを感じてよかった。叔父たちにあそこまでされたのなら、半沢のように倍返しして叩きのめすことも出来ただろうに。階堂はグループ全体の社員のその家族の生活に思いを馳せたんだろうな。東海グループが破綻すれば、日本全体に与える影響は計り知れない。聡いトップはいがみ合うことよりも和解することに大義を見出した。
 そういう意味で、同族の因縁を断ち切る土下座には大きな意味があった。「やめろ、やめてくれ」と言う叔父の気持ちが透けて見えるようだ。俺たちが馬鹿みたいじゃないか、こんな青年が俺たちに土下座してるなんて。

5
 蛇足だけど、俺も山崎のように育ちが良い方だと思う。二人のやり取りの中で、階堂が山崎に「育ちが良いな」というシーンが印象的だった。

 悪意や裏切り、不誠実といったドロドロとしたものからはあまり晒されないでここまで来た。誠実で真っ直ぐで愛のある家庭、先生たちに育てられた。特に、実家の経済的な状況と実直・堅実・誠実な教育方針が色濃く反映されている。中高大と荒んだ人間関係からも離れていたことも大きい。

 その結果、真っ直ぐで品行方正で、牙を持たない人畜無害なTHE丁寧みたいな俺が出来上がった。フランクな物言いや圧のある態度を取るのが苦手で、甘えん坊で世間知らずだ。階堂から言わせれば、育ちの良さ=甘さであり、仕事でそれに悩むことは多い。二人のやりとりを見て、育ちというのは結構面白い。そんな気がした。

6
 命を燃やしている彼らを見ると、お前は何のために生きてるんだ、と問わずにいられない。仕事の愚痴をこぼしてストレスばかりの日々を庇うように休日はダラダラと過ごし、マッチングアプリで人を探してる。何という体たらく。そうすることでしか自分の健康を守れない状況を残念に思うし、その状況を作り出したことも、次の場所をすぐに用意することが出来なかったことも悔しい。こんなに奮い立っているのにがむしゃらに頑張るとキャパオーバーになってしまうことが何より残念で、苛立ちを腹の中に埋めている。むしゃくしゃしていると言った方が適切かもしれない。

 それでも尚、何やってんだよ、何のために生きてんだよ、会社なんて早く辞めちまえよ、と思わずにいられない。KINGDOM2で天下の大将軍を目指す童・信を見ても、トップガン:マーヴェリックで隊員が逞しくフットボールするシーンを見ても、変わらない。仕事を辞めろ、好きな人の所に行けよ、やりたいことをやりに努力しろよ、という心の声は変わらない。彼らのように命を燃やしながら仕事がしたいと思った。


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建内 亮太|Ryota Takeuchi
最後まで読んでくれてありがとう〜〜!