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JLPTに合格させたいならJLPT対策をしてはいけない

日本語学校の授業で中級以降にJLPT対策本を使うことがあります。もちろんJLPTの合格を目指すわけだから仕方ないのかもしれませんが、今一度問いたい。目的はそこですか?と。そして、その山に登るにはその道しかないですか?と。

今日はそのあたりのことを考えてみたいとおもいます。

本当の目的がJLPTだという人はいない

レッスンのカウンセリングをするとき、目的をきくと大体の人は「JLPTのN○に合格したいです」と言います。

でも、それは大抵の場合、本当の目的ではありません。

本当の目的は「アニメを見たい」だったり「友達と話したい」だったり「日本へ行きたい」だったりします。

そこを見つけて、興味を持つレッスンにすることがまず教師のやるべきことの一つです。

でも、クラス授業とか、そもそも日本語にそんなに興味がないという人もいますよね。(有料ですが、以下の記事を参照してください)

その人たちには、「こういうことがおもしろいんだよ」と思うことを見せてあげることです。

だから、教師は常に「どういうことがおもしろいのか」探しておかないといけません。でも、それは学習者目線でなくてもいいとおもいます。あなたの目線でおもしろいと思うことをたくさん持っておくのがおすすめです。

JLPTで日本語力をあげる授業を作るのは難しい

もう一つに、JLPT対策で授業を作るのは難しいということがあります。

例えば「JLPTのN2文法」みたいな本があって、それを日本語学校の中級クラスで3ヶ月ないし6ヶ月でやることって多いと思うんです。

でも、その本でおもしろい授業を作るのは、はっきりいって至難の技なんです。

だって、「〜に限りでは」「〜に限り」「〜に限って」「〜限り」みたいに見分けがつかないほど、似ている例文が列挙されていて、その違いを教えるのってどんな苦行ですか?っておもいませんか?

たとえ教師が違いを明確に理解していても、それを授業で学習者にわかりやすく教えるのって何年やっても本当に難しいです。不可能に近いです。

学習者のほうも、「違いは何?」って質問しますし、その説明を日本語で聞いたってはっきりわかりません。

それなら母語で解説しているYoutubeをみたほうが早いよってなります。絶対なります。

そんな授業を日々受けていて、日本語能力が上がるでしょうか?わたしは難しいんじゃないかなとおもいます。日本語能力が上がらないのに、JLPTに合格できますか?

じゃあ、どうやって文法(そもそもこれは文法ではなくて、表現ですが、それはまた次回別記事で書きます)を勉強するんだ?って話になると思うのですが、わたしは、「良いものを読むこと(または聴くこと)」を推奨したいです。

日本語で読むことを通して、世界を少し広げる授業をしたい。

例えば、その中で「わけがない」という表現があったとして、その意味はその中で確認してもらいたいと思っています。

なぜなら、それが日本語のなかのどんな文脈で使われているのかということがわからなければ、勉強したことにならないと思うからです。

語彙にせよ、文法にせよ、JLPT対策本のように、ただの情報の羅列を消化していっても、それが学習者の血と肉となるのかなあと常に考えています。

もちろん、JLPT対策が楽しいという人もいるでしょう。それが血となり肉となるという人もいます。学習者は自分で問題を解いて、合格します。

でも、せっかく授業で学習者に会えたのだから、学習者もクラスメートに会えたのだから、JLPT対策はやりたくないなあと思うのが正直な気持ちです。

言語を学ぶということは

以前、こういうことを呟きました。

JLPT対策をするということは、読解などで新しい発見があるかもしれませんが、「ただ言語を学んでいる」ということですよね。ただ言語を教えるのが教師ではなくなると書きましたが、もうすでに、なくなりつつある。いや、なくなっている。

これからは、実際の世界の外へと行動していく学習者を導くことと、自分の内に向かってさらに人間を知ろうとする学習者を支えることが日本語教師の仕事になるんじゃないかなあとおもっています。

そのほうがワクワクするし、きっと「学びたいな」という気持ちがわくと思うのですよね。そして、どんどん「わかった」「できた」を増やしていくことで、日本語能力もあがっていくはずです。

わたしはそういう道でJLPT合格を目指したいし、無理なことではないとおもいます。

まとめ

そもそも、JLPTって今いるレベルを測るものだから、楽しく学んでその結果を知るためのものです。だから、学習者が楽しく学んで日本語能力をあげれば、JLPTには合格します。

仮に、「解き方がわからない」とか「問題に慣れていないから慣れておきたい」とか「自分のレベルより少し上のレベルを目指したい」とかそういう希望があるときだけ数ヶ月間対策をすればいいわけで、対策とはそういうものです。

だから、知的好奇心をくすぐり、「できた!」を実感できるレッスンが本来やるべきレッスンです。やる気を引き出し、日本語能力を上げることで、結果的にJLPTにも合格できたという形を目指したいと常々考えています。

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日本語教師でライターが日常をみつめるエッセイです。思春期子育て、仕事、生き方などについて書きます。

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