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38.『石川・富山ひとり旅2日目』
ピピピピ。
ピピピピ。
AM5:30 起床。なんとか寝坊せず起きれた。今日は能登地方でボランティア。6:30の電車に乗らなければならない。そこからバスに乗り換えて9時までに集合。まずは辿り着くことが目標。
ボランティアに行く前に身だしなみを整えるため、ひょっこり頭を出し始めている顎髭(あごひげ)たちの首を刈る。凶器はホテルのアメニティのT字カミソリ。ジョリジョリと小気味良く刈っていく。そこでふと、剃った跡のところどころに赤い斑点があることに気付く。血だ。髭たちの首を刈っているのだから血くらい出るだろうと思ったそこの女子!違う!俺の皮膚が削られている!この凶器は俺の皮膚まで傷つけている!女子にはわからないだろうがこれは安いT字カミソリあるあるだ!まずい、まずいぞ。今日はボランティアだというのに顎が血まみれの人間が現れたら現地の人に逆に心配されてしまう。それ以前にこの出血で俺が死んだらどうなるんだ?カミソリ死?髭死?髭男?え、俺って髭男(ヒゲダン)なの?グッバイ、君の運命の人は僕じゃないの?血まで流したのに?それが宿命ってやつ?
だが焦ることはない。俺は手術室の看護師。止血の方法など熟知している。
とにかく顎をタオルで圧迫する自分の姿が鏡に写る。そこで俺は思う。…朝から何やってんの?
なんとか血は止まり、髪を整え、ホテルを出た。電車に乗り込み、途中バスに乗り換え、なんとか集合場所に辿り着いた。
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今日一緒に活動する人たちが集まっていた。もちろん顔も知らない。話したこともない。初めまして。今日はよろしくお願いします。
今日の活動について説明を受けた。僕の今日の活動は、津波で海岸に打ち上げられたゴミ拾いだそうだ。活動場所までバスで向かう。
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バスの窓からは、瓦が落ちてブルーシートを被った家や崩れた家などが散見される。残酷な現実を目の当たりにした。
海岸に到着。かなりのゴミが打ち上げられていた。ゴミの分別方法など簡単な説明があり、早速ゴミ拾い開始。ペットボトルや空き缶、漁で使われる網や紐の切れ端、片方だけのスニーカー、発泡スチロールの破片など様々なゴミを拾った。中でも気になったものが、クルミ。しかも割れてないやつが結構落ちていた。ひとつ聞きたいんだけど、どういう気分になったら海でクルミ食おうってなるの? あーやべぇ、仕事で失敗した…、よし、海でクルミ食おう。ってなる? 娘の結婚式感動したなぁ、よし、海でクルミ食おう。ってなる? 能登の海岸でクルミ食ったの俺だよー、って人いたらコメントください。
休憩を挟みつつ、6時間ほど活動した。20人程度で最後にはトラック2台分のゴミを集めた。これだけ集まるとかなりの達成感がある。これだけ活動してももちろんお金などもらえないし、豪華賞品がもらえるわけでもない。それにも関わらず、顔も知らない人たちが集まって同じ目的のためにひとつになり、活動が終わればまたそれぞれの生活世界へと戻っていく。利他の精神で繋がる人の心、美しいなと思った。
解散した後は、頑張った自分へのご褒美に寿司を食べに行く。
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バファリンのように半分が優しさでできたようなおじいちゃん大将(たぶん上半身が優しさ)が握ってくれた。とても美味しかった。
金沢駅近くのホテルまで帰ってきた。とりあえず汗を流し、夜の9時半。飲みに出るか、このままゆっくりするか。迷っている僕に僕の中の悪魔が囁く。
『そんなもん飲みに出るに決まってんだろ。ボランティアで疲れたとか言い訳すんじゃねえよ。さっさと支度しろ。』
それに対し、僕の中の天使が囁く。
『そうよそうよ!さっさと支度しなさいよ!』
僕は重い腰を上げてホテルを出た。自分の中で、行くところは決まっていた。
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2日連続で山長。今日の活動報告をしなくては。山長に着いて扉を開く。
僕「こんばんは!」
女将さん「あー!昨日の!笑 どうぞどうぞ!」
時間も遅かったので他に客はいなかった。昨日と同じ席に座る。
お母ちゃん「どうでした?行けました?」
僕「なんとか電車とバスで辿り着けました笑」
女将さん「へーすごい。どんなことされました?」
僕「海岸に津波で打ち上げられたゴミの掃除をしてきました。」
女将さん「そうですか。大変でしたね。」
とりあえずビール。
僕「イワシありますか?笑」
女将さん「ありますよ!食べ方は、昨日の?笑」
僕「昨日と同じ、塩茹ででお願いします笑」
女将さん「はい、わかりました笑」
なんか、ほっとする。実家に帰ったような、そんな感覚。昨日会ったばかりの人たちなのに。
女将さん「昨日帰られた後、あの常連のおじいさんが『綺麗に魚を食べる子やね』って褒めてましたよ笑」
僕「本当ですか笑 嬉しいです笑」
安定のイワシからシメのご飯までいただき、大満足。明日以降の金沢観光や富山観光のアドバイスをいただき、ぜひ参考にしたい。みんなで写真を撮らせてもらい、お別れの時。
僕「ありがとうございました。本当にいい出会いでした。」
お母ちゃん「こちらこそ。またご縁があれば。」
女将さんが店の外まで出て「おやすみなさい」と声をかけてくれた。たったそれだけで人の心は動く。一期一会。2回会ってるから一期二会? 金沢に来ることがあれば絶対にまた訪れたい。
今日一日本当に充実していた。ボランティアで精一杯活動した達成感、人の温かさに触れたほっこり感、顎のヒリヒリ感。それらが合わさったとき人は、海に行って波の音を聴きながらクルミでも食べたくなるのだろう。
いやそんなはずはない。
- 3日目に続く-