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変わらずにいて-死への先駆

 22歳の夏は暑かった。私の住んでいる街は3週間以上も猛暑日が続き、気温35度ですら涼しく感じるような猛烈な暑さだった。

 22歳になって、4年生大学へ進級した友人の多くは就活を迎えた。就職すると、学生時代と比較して予定を合わせづらくなる。そもそもこの街を去ってしまう友人もいるし、土日休み・平日休み・不定休や勤務時間、それぞれの生活スタイルが異なってくる。
 だから、私たちはこの夏みんなで集まった。
 「働きたくない‼️」「一生このままがいいよ〜」
将来への不安や現状への不満をつらつらと並べながら、みんなでご飯を食べて、共に過ごした過去を懐かしんだ。
 特に、中学からの友人はもう少しで出会って10年になるし、当時は本当に今以上に子どもだったから、あの頃を思えば随分と成長したなと感じる。そう、人は変わるのだ


           🏳️‍🌈

 
 みんな変わっていくなと思う。でもそれと同じくらい私も変わったなと思う。
 あの頃は絶対に話さなかったけど、みんないろんな話をするようになった。下ネタを発することは恥ずかしいことだったはずなのに、堂々とセックスの話をするようになった。高校を卒業したあたりで突然のカミングアウトラッシュが到来した。私の周りの友人の多くはセクシャルマイノリティだった。そして、私も。今までは秘密にしていた自分自身のセクシャリティの話をするようになった。

 あるタイミングで同じ方向を向いていて仲良くなった友人でも、時が経つにつれ向いている方向が変わってくることもある。あの時はずっと一緒だと思ってたのに、気がついたら疎遠になっている。

 かつて仲の良かった友人のうち何人かは、性の悦びを覚えて、私とは異なる方角へ歩み始めた。私から見ると、性欲に人格を乗っ取られたかのようだった。性行為ができる関係の人物(その多くはセフレだったり、ワンナイトの関係だったりする)以外の友人への扱いが雑になり、むしろ以前と変わらない私へ向けて文句を言うようになった。そうしてだんだん遊ばなくなっていった。


         ★★★★★


 そしてこの夏、またしても友情が綻びを見せた。それは数ヶ月ぶりに会った中学時代の部活関連の友人グループとの会話の中だった。
 友人Aは4年制大学の看護学部に通っており、実習や国家試験に向けて忙しい日々を送っているようだった。Aは忙しい日々の中で努力している自分と比較して、頑張っていない人々への怒りで満ちていた。

 「なんでさ、努力してない人の分まで私が負担しなきゃいけないの?」「頑張ってないくせに偉そうな口叩くなよ」

 彼女は強い口調で、努力を怠っている人への怒りを叫び続けた。私は看護師を目指すAからそのような生存バイアスに塗れた、ひどい言葉が出てきたことに衝撃を受けた。きっと疲れているんだろうけど、また1人、変わってしまったと思った。
 私はAとこれから先、また今までのように遊べる自信がなくなっている。それくらい私たちの間に生まれた溝は広く、深い。


        ☀️☀️☀️☀️☀️

Stay  変わらずにいて
このままずっとずっと
さあ シャッターを切るよ
しまっておきたいから
輝く今を So stay

STAY / JO1

 この曲はJO1という男性グループの「STAY」という曲の歌詞だ。
 私はみんなとこのままずっと変わらず、大切な友人として過ごし続けたい。でも、人は変わっていく。だから、シャッターを切る、そしてこの瞬間を心のアルバムの1ページにしまっておく。

 諸行無常という言葉の偉大さを思い知る。私たちの交友関係も、いつかは終わる。どんな友情も、どんな愛もいつかは終わってしまう。それは究極的には「死」という形でもたらされる。

 自己というのは他者が存在して初めて規定されるものだから、ひとつの交友関係を失うということはひとつの自己を失うこと、すなわちひとつの死であるといっても過言ではないだろう。

 20世紀ドイツの哲学者ハイデガーは「死への先駆」という考えを提唱した。

死を運命として自覚的に受け入れることを「死への先駆」と呼ぶ。

https://book.asahi.com/article/11581488

 どんな関係もいつかは終わってしまう。究極的にそれは「死」という形で。という事実を受け入れることはまさしく、ハイデガーの言う「死への先駆」なのではないだろうか。
 

 こうして私は22歳の夏を駆け抜けた。
 みんな、変わらずにいて。

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