見出し画像

35℃の体内

暑い。

午前中に買い物をすまそうと思って10時頃に出かけたのに、色々と買う物を迷っているうちに気がつけば12時を過ぎてしまっていた。買い物袋を右手と左手にときどき持ち替えながら息を切らせて歩く。スマートウォッチで現在の気温を確認すると35℃だと表示された。ほぼわたしの体温だ。

遊牧民がする動物の解体を思った。動物はわたしだ。白いお腹をサクッと割いて肉をゆったりと手のひらでめくりあげる。皮と脂肪と肉の三層になっているはずだ。だぶついたそれと臓器の袋の間にそっと手をもぐりこませる。するとそこには今日の気温と同じ灼熱の暖かさがあるのだ。太陽の圧倒的な熱が、眩しくて直視できない熱源から発せられる熱が、わたしの中にも絶やすことなく産み続けられているだなんて。わたしはわたしの白い皮(と脂肪と肉)の中にしばらく潜り込んでいた。

あまりの暑さに想像の世界に緊急避難していたのかもしれない。気がつくと家の近所まで帰ってきていた。出掛けに塗ったリップティントは熱ですっかり乾ききって唇の山がヒリヒリ痛んだ。

買い物は、もう少し涼しい時間帯が良いですね。

このエッセイは有料設定ですが全文公開しています。もし気に入ったら投げ銭をお願いします。


ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?