短編フィクション 自粛裁判
フィクション 自粛裁判
久保研二 著
「被告人は前へ……特高(警察)が言うには、被告人は、国が定めたコロナの自粛をサボってたらしいな?」
「裁判官、そんなアホなことありますかいな?」
「誰がアホやねん?」
「誰がカバやねん?」
「ハハハハハハ…誰がカバやねんロックンロールショー…ってか、あほちん! そんなんで、裁判官がごまかされるかい!」
「いやいや、裁判官…そもそも、よう考えてくださいよ、どこをどう切っても開いても、天性のサボりの私が、無理して自粛をおろそかにして動きまわるワケありませんがな、サボりがサボったら、マイナスかけるマイナスで、勤勉になってまいまんがな…わかります? 味方の味方は味方ですけど、敵の敵は味方ですやん」
「ほんならなんで、特高がわざわざオマエ…もとい、被告人を起訴したんや?」
「被告人とちゃいまんがな、被疑者を起訴したから、被告人になってもうたんですがな」
「それは、たしかに理屈やな…ちょっとまて、水を沸かしても、湯を沸かすと言うやないか?」
「あれは、水を沸かして湯にする、と言うのが正しい言い方ですわ」
「そうか、それはわかった。それで、なんで起訴されたか? や」
「それは、完璧な捏造連発、事実ねじ曲げ逮捕ですわ」
「ほんなら何か? 特高はテレビ朝日か?」
「よう似たもんですわ」
「ハハハハハハハハハ…新聞もテレビもいっしょか? ハハハハハハって……ごまかされへんで!」
「ホンマですがな、家で屁ぇこいて寝てましたがな、そやけど、たしかに3日と7日は、ワシ、スーパーに買い物に行きましたで、鶏の胸肉で手作りハム、こさえましたんや」
「あれなあ、自分…皮どないした?」
「自分って、被告人でっしゃろ?」
「そうそう、被告人は、ハムつくるとき、鶏の皮を、とるのん?」
「とるのん…トルノン…トリトン!」
「♪ す〜い〜へい〜せんの終わりには、あ〜あ〜…って、なんでワシが法廷で海のトリトンを歌わなあかんねん! 完全な誘導尋問…いや、誘導発言やないかい! 言うとくけど、裁判所は神様の次に偉いねんで」
「よろしいやん、ワシら、高校2年の時に、合唱大会、自由曲で"海のトリトン" 歌って優勝したんでっせ、その時の譜面かいたんが、イマージュの羽毛田ですがな」
「ほんまにぃ…って、そんなことはどうでもええねん…とにかくや、ハムかチャーシューかは知らんけど、被告人は、ゴールデンウィークのあいだ、ちゃんと自粛してたと"そう"言い張るわけやな?」
「何回も"そうや"と言うてますやん?」
「ほんなら、なんかワイに証拠を見せたれや」
「オタク、ほんまに裁判官ですか?」
「被告人は、自らの無実を証明すべく、その証拠を示さねばならない」
「証拠と言われても……」
「証人はあかんで、今さら呼ぶのじゃまくさい」
「そや! コレどないですか?」
「なんや、コレ?」
「万歩計ですわ」
「アホ! ここをどこやと思うてるねん! 言葉に気をつけんかい、ここは裁判所やぞ裁判所!」
「ちゃいまんがな…ええっと…そうそう、歩数計です、歩いた歩数の記録」
「あ〜びっくらこいた……どれどれ…?」
「どないですか?」
「被告人」
「はい」
「もっと運動せな、あかんで、マジ、豚になるで」