エッセイ 昔の腕時計
大昔の腕時計、SEIKOファイブ。
自動巻だが、常な腕にはめていないと、すぐに止まってしまう。
ホントならオーバーホールすれば良いのだろうが、相当な費用がかかるに違いないし、そこまでする思い出が染み込んだ時計でもない。そもそも何十年も存在すら忘れていたのだから。
ところで、今日はやたらと風が強かった。ベランダに干してある洗濯物が飛びそうになるほどに……。
そこで、風力自動巻を思いつき、さっそく実践してみた。靴下のように、ピンチハンガーにひっかけてみた。案の定、風でクルクルと回る。
これでおそらく、家に居る時も、きっと止まらないはずである。
でも、たまたま今日は良いものの、風のない日もたくさんあるし、そもそも、落ち葉は風を恨まないと、先日人に説教したばかりだ。
思いきって、わ誕生日のお祝いに、新しい自動巻……しかも、同じネーミングである、SEIKOファイブ の子孫が欲しいと身内にうったえた。
そして届いた時計を腕にはめると、実にこれが可愛い。
小さくても純度が高い幸せを抱きしめている横で、どうでもよくなった古い時計が、再び暗い引き出しの奥に帰っていったのだった。