読んで納得【久保研二の 解説・事件の深層】
今からおよそ8年半前の2012年9月10日の朝、四国は高松空港から羽田に向かう日航機の中で、当時34歳の男が27歳の見目麗しきスッチーのスカートの中を盗撮しよりました。けしからん輩です。
犯行は現場でバレて、飛行機が羽田空港に着陸直後、容疑者は逮捕されましたが……さて、問題は犯行現場の特定。
そら、犯行現場が機内であるのは間違いないのですが、要はそのナワバリです。
盗撮行為を取り締まる…具体的には警察が逮捕する名目は、痴漢と同様に「迷惑防止条例」しかありません。
ところがこの条例、国ではなく各都道府県ごとに規定しているから厄介なのです。
つまり、犯行時の飛行機がどの自治体の上空を飛んでいたかによって管轄が変わってしまうということ。
そこで警察…その時点では羽田で逮捕した警視庁が、まず犯行時刻から飛行位置を割り出すことにしました。
スマートフォンなら撮影時刻が残っているので一瞬でわかるのですが、なんと盗撮に使われたのは、いかにも北朝鮮の工作員が使いそうなボールペン型のカメラだったので、時間が記録されていなかったのでした。
しかたなく、目撃者からの聞き取り情報や、ベルト着用サインが消えた時刻との比較とかで、とりあえず犯行時刻…つまり盗撮した時刻を午前8時09分と仮定し、航跡の記録データなどをもとに逆算すると、どうやらその時刻には兵庫県の篠山の上空を飛んでいたと推測されました。
なんたるご縁でしょうか?
兵庫県の篠山といえば、かつて私が強制的に宿泊させられた因縁の篠山警察がある場所ではありませんか。
ということで、とりあえず被疑者は「兵庫県迷惑防止条例違反」の容疑で、めでたく身柄をとられることになりました。
ちなみに、飛んでるさいちゅうの盗撮行為での逮捕はこれが全国で初めての快挙? でした。
ばってん! 地元の人間ならガッテン承知の介の地理事情。
篠山市は兵庫県の東端で、ほんのちょっと東に行っただけで京都に入ってしまいます。まして飛行機は分速約15キロで飛ぶので、わずか1分、実際の犯行時刻がずれただけで「京都府迷惑防止条例」になってしまうのです。
そしてマンが悪いことに、目撃した乗客の記憶情報も、イマイチ正確性に欠けるものしかありませんでした。
我々素人や、盗撮されたスッチーからすると、
「そんなもんどっちゃでもええやないかい!」
と思うのが人情ですが、法曹界というのは「放送業界」や「宗教界」とは異なり、ちょっとやそっとの人情やお布施では左右されない独特の硬度が備わっている特殊な業界なのです。
よって神戸地検は、
「犯行現場が篠山市上空であるとの特定が不十分」であり、公判維持が困難な可能性が拭い切れず、その時は検事(検察官)のキャリアに傷がつき、その後の出世と収入に多大な悪影響を及ぼしかねないと判断し、23日後に処分保留で被疑者を釈放。
被疑者は棚からぼた餅で、不起訴処分を勝ちとったのでした。
この事件、決して冤罪ではありませんでした。
被疑者は早々に犯行を認め、さらに押収された自宅のパソコンからは大量の盗撮したであろう画像が見つかったのです。つまり真っ黒くろすけ。
けれども、この事件で私が一番腹が立ったのは、コイツがうたった言い訳というか、犯行の動機です。
「制服が好きで、つい盗撮してしまった」
嘘つくな! 盗撮したん、制服やのうて、その中身やないかい!