エッセイ 一文字違い
突然の電話がありました。
第一声が、
「どないしてんのん?」
「突然"どないしてんのん?" ゆわれても、金欠ですがな」
「そっちは、コレラの影響、どないや?」
「"コレラ"は全然流行ってませんけど、"コロナ"やったら、みんな一応、用心してマスクはしてますけどね」
「そうや、"コレラ"ちゃうわ、"コロナ"やったなあ」
「大違いですがな」
電話の主は、私よりもさらに胡散臭い"ワル"で、電動改造車椅子に乗った、ひとまわり年上の暴走不良老人です。
「こっちはなあ、ワシが今、つきおうてるんは、ほとんどお百姓やさかいにな、みんな誰一人としてマスクなんかしてえへんで、そら、役所や店の従業員とかはマスクしてるけどな」
「そうですか、まあ山口も、あんまり変わらんと思いますよ、のんびりしたもんです」
「ほんで、いつこっち、遊びにくるのん?」
「行きたいのはヤマヤマですけど、油(ガソリン)代がおまへんがな」
「そうか……まあ、コレラが落ち着いたら、またきっとええことあるがな」
「そやから、コレラとちゃいますって、よそで言うたら笑われますで……そんなもん、バルブがはじけた! ゆうてんのんとおんなじですがな」
「ワシな、いま、前にもアンタに言うたけど、ミツマタ栽培しとるねん。3年かかるんや、収穫できるようになるまで」
オッさんは、兵庫と岡山の県境付近の田舎に、長年住み慣れた神戸から数年前に転居していたのでした。
「それで、それ売って儲かるんですか?」
「それが、まだそこまではいかんねんけどな、ミツマタは、お札つくる紙の材料になるからな、いざとなったら、なんぼでもゼニ、刷れるやろ?」
「何を寝言ゆうてるんですか?」
「寝言とちゃうがな、冗談やがな……そうやそうや、夏にな、流し素麺やってるねん、食いにおいでや、えらい人気やねんで」
「とにかく、夏までに今の騒動がおさまってたらええですけどね」
「そんなもん、おさまるに決まってるがな」
「そやけど、年寄りが感染したら命とりでっさかいに、気をつけなあきまへんで、命はひとつしかないんでっから」
「大丈夫や、死んだかって、また生き返るがな」
実はこのオッさん、50歳の時に倒れて、1年半も植物人間になったあとに意識が回復した、ハードボイルドな経歴を持っているので、妙な説得力があります。
「そやけど、毎回毎回、調子ように生き返るとは限りませんから……」
「半年意識が戻らんかったから、生命保険おりて、前の嫁はん、一億もろてるさかいにな、まぁ、それ持ってトンズラしよってんけどな」
「アホなことばっかり言わんと……」
「そやな、まずは、これからコレラがいつ落ちつくかやな、そうでないと、なんも始まらんわな」
「そやから、コレラとちゃいますって! コ ロ ナ ❗️ 」
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