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エッセイ 二本立て
20歳前後の頃、同級生でバンドメンバーでもあった、M君に誘われて映画館に映画を観にいきました。
映画館に……と、わざわざ書かねばならない世がくるとは、あの頃は思いもしませんでしたが……とにかく、観に行ったのは、B級映画館の二本立てでした。
私は今もそうですが、世の中の諸々の動きにものすごくうとい人間でした。
かたやM君は、インターネットなどなかった時代に、仲間内から「M情報センター」と呼ばれていたほど、なぜかいろんな情報を持っていました。
音楽も、マンガも、映画も、ギターも……。
トッド・ラングレンが好きで、吾妻ひでお の描く美少女に感動し、誰よりもギブソンをはじめとする、ギターの知識を有していました。
彼の特異なところは、毎晩必ず寝る時には、白い靴下に履き替えて寝ることでした。
それともう一つ。
手のひら多汗症で、紙をめくるのが便利でした。でも、ギターを弾く時に感電するのではないかと、私はずっと心配していました。
テストの時には、机に鉛筆でカンニング用のメモをしても、指でスッとこするだけで、一瞬で消えるので、とても羨ましかったです。
そのMくんが、
「久保、絶対におもろい映画や、損はさせへんから、一緒に見にいこうぜ。もしも観終わったあとて、おもろなかったら、その時は全部俺が金を返したる」
彼がそこまで豪語した映画でした。
よって私は、小指の爪の先も疑うことなしに、ホイホイと同行したのであります。
場所は、忘れもしない、神戸市東灘区にあった「甲南朝日」。国道2号線、田中の交差点を南に下りて東側でした。
集中して2本観終わり、私は廃人になりました。
魂がすべて蒸発してしまったのです。
なんせ、その後の長い人生、あとあとまで考えても、生涯10本の指にはいるであろう映画を、2本まとめて観てしまったのですから……しかもなんの前知識もなしに。
観終わった私をみて、満足そうにうなずきながら、M君が、衝撃的な発言をしました。
「久保……もう一回、はじめから見いひん?」
私はM君の、その精神的体力と、興味に対する粘着性持久力が、信じられませんでした。
「俺、女の子と映画観に行ってもこんなんやからな、そら、女の子も愛想つかすよな」
M君は、にやけながら、そうつぶやきました。
さて、その時に観た映画が、
【Uボート】と、【ブレード・ランナー】でした。
その【ブレード・ランナー】にインスパイアされて書いた歌を、今、レコーディングしているアルバムにいれようと思っています。
すべては、M君のおかげです。
けれども、やはり別の日にM君に誘われて、西宮の今津文化で観た洋物ポルノ映画、
【ウォーター・パワー】は、後悔以外の何も残りませんでした。ただし、西洋人の圧倒的パワーには、驚かされましたが……。
何しろ、金髪のポルノ女優が、浣腸されてひたすら脱糞する映画でしたから……。