エッセイ 機関車仮面
実は、霞が関や永田町の妖怪どもに、自慢をしたいのである。
「ワシはなあ……こう見えても、機関車仮面のDVD を観て、号泣できんねんぞ!」 と、
機関車仮面というのは、昔のテレビ番組「秘密戦隊ゴレンジャー」に登場した怪人である。
正確には、第46話 「黒い超特急! 機関車仮面大暴走」の主人公。
事件の端緒は、廃線になったはずのトンネルの奥から機関車の汽笛が聞こえてきたことだった。
ありえない現象に、人々は不審がる。
そして現れた、実に怪しく、インチキくさい怪人。
「しゅぽっぽっ!しゅしゅぽっぽっ!しゅしゅぽっぽっ!」
自らの口でそう叫びながら、両手を車輪のように回して、幼稚園のお遊戯のように走るのである。
機関車仮面は、走ることが最大の武器であり任務であり、とにかく東京の町をただひたすら、走りたおすのである。
ここ一番の時は、腰にぶら下げた巾着袋から石炭をとりだし、鼻の蓋をあけて、巨大な顔の中に放り込む。中はもちろん真っ赤に燃えている。
機関車仮面が、何故走るだけなのかが謎とされるのだが、後でその秘密が明かされることになる。
実は、ゴレンジャーの地下基地を探知機で探すのが目的だったのだ。
機関車仮面は律儀で、ちゃんと歩道橋を走る。
撮影だからかどうかはわからないが、まわりを歩く東京の一般人が、あまりに無関心なのが、そら恐ろしくなる。エキストラとは思えない、田舎ではありえない、都会の恐怖である。
東京人の正体みたり無関心。
機関車仮面は走り疲れ、一休みして喫茶店で水をもらって給水すると、
「かたじけない」ときちんと、礼を述べ、そしてこう言った。
「あと1キロ走ると、基地の周りを全て走ったことになるんじゃぁ!」
この昔堅気な、目標に対する律儀な姿勢が、実に泣けるではないか。
それでも、情け容赦ない正義の味方ゴレンジャーたちの卑屈な作戦によって、機関車仮面は坂道におびき寄せられてしまうのだった。
具体的には、
「や〜い、こっちだこっちだ〜」と、からかわれて、あおられて、騙されて……。
ゴレンジャーのリーダーは、SLは登り坂に弱いはずだとにらんだのだった。
案の定、機関車仮面は坂道で苦しみ、体力を消耗させられた挙句、徐々に動きが鈍くなり、その頃合いを見定めて、ようわからんアメフトのボール爆弾を煙突に蹴りこまれて、自爆して果ててしまうのである。
最期のことばが、また泣かせる。
「オレの時代は終わった~」
私は、以前レンタルで借りて観なおしたのだが、できればDVDを買って、自宅に永久保存したいと考えている。
機関車仮面から学んだり、考えさせられたりすることは、多々ある。
そもそも、正義の戦いなどが、本当にあるのだろうか?
正義の味方の、その正義の根拠とは、いったい何なのだろうか?
方向や思想や趣味、センスは別として、一生懸命に頑張っている者の命を、片方から見た正義を盾にして、一方的に奪ってよいのだろうか?
機関車仮面とゴレンジャーは、友達になれなかったのだろうか? そうなるための努力を尽くしたのだろうか?
私には、両方とも、ユニークで憎めない、"ええ奴ら"に思えてしかたがない。
でも、それが組織や国家なのであろう。私ひとりが泣いても叫んでも、世の中は少しも動かない。
今からまた、一人で泣こうと思う。号泣ではなく、今度は冷めざめと。
DVDはなく、写真を見て、思い出して……もちろん、機関車仮面を偲んで。
「霞が関や永田町の諸君!
よくよく聞きたまえ。
おまえらには出来んやろ? こんな芸当が……
おまえらが虫けら扱いする国民の中には、機関車仮面で号泣できる人間もおるんやぞ!
おまえらが知らんだけで、おまえらの時代も常識も、とっくに終わってるんや。
機関車仮面の辞世のように……」。