エッセイ 悦楽王
「悦楽王」という本を読んだ。
まるで私のことではないか? などと、微妙且つ複雑に考えながら、下顎を撫でた。
著者と表紙は妖しいが、中身は、『SM官能小説』ではない。
私の母校、関西学院高等部の大先輩でもある、今は亡き、かの 団 鬼六(だん おにろく)大先生の珠玉のエッセイ集なのだ。
本文中に、寅さんこと…渥美清のエピソードが少なからず出てくる。これがまた実に興味深い。
横道にそれるが、その渥美清の魅力満載の一本。
『 拝啓天皇陛下様 』
という、私が3歳の春に公開された映画を観た。
ラジオで日頃から私が力説している『スカタン論』が、あらためて心に染む内容だった。
5.15事件〜日中戦争〜大東亜戦争〜終戦〜戦後の激動の時代。
その非常にややこしい時期に生きた一人の「スカタン」の一生を見事に描いている。
映画に一貫している視線は、反戦でも好戦でも、右でも左でもない。
この映画が示す冷静な歴史認識とバランス感覚が、1963年に存在したということである。これは非常に重要なことだ。
話を戻す。
冒頭の【悦楽王】に書いてあった、渥美清が悩んでいる著者、団鬼六 先輩に語ったことばを紹介する。
『文学作品とか、芸術作品とかいったものは、別にあなたがやらなくたって、この世にやる人はわんさかいますよ、
正直言って僕だって、寅さん映画が売れるから、次から次に出演しているんです。
そんな役者でいいのかと、自分で疑問に思ったことは、何度もあります。
自分の可能性を、自分が狭めているんじゃないかと、思いました。
しかし役者とは、大衆に支持されるものなら、どんどん出演するべきだと思います。
大衆に悦ばれ、支持されるものに出演するということ、これは役者冥利に尽きるものです。』
私も、創作人生のもっと早い段階で、こんなアドバイスを寅さんから直接もらいたかった。残念……。