毒を吐く マイノリティの叫び
聞き慣れない歌が、スタジオのどこかから流れてきた。
今風の女性ボーカルである。
あまりの下手さに、頭に来て、ぶち切れた。
「誰や? これ歌うてるんわ?」
「ごめん、ごめん。ちょっと仕事で、どうしても音源を聞く必要があって…すぐに終わるから……」
「どないしたら、こんな下手に歌えるんや?」
「何を言ってるんですか? いまの子たちは、みんなこの人の歌が大好きで、それよりも、この人は、歌がうまいと評判なんですよ」
「アホなことを言うな! そもそもコイツ、声の出し方が気色わるすぎる」
「こんなのが、みんなは好きなんですよ」
「世の中、狂っとる!」
「だから…変だと感じるのは、私たちだけなんですよ…私たちの感覚が、世の中からズレてるんです」
「コレ、歌うてるのん、なんちゅうやっちゃねん?」
「○ー○ー○○○、です」
「なんやそれ? カタカナか? アルファベットか?」
「どっちでも出ると思いますよ、すぐに」
「よっしゃ、Facebookで、ボロクソに書いたろ」
「やめた方がいいですよ」
「なんでや?」
「だって、圧倒的マイノリティな意見を出しても、そもそも頭から被曝して信じきって、理解できないマジョリティ側の人には、なんの気付きにもならないし、逆に、口が悪い変な人と、世間からますます嫌われるだけですよ。こんな歌を上手いと思って、好きな人がたくさん居るんですから」
「みんな、死んだらええねん!」
「またそんなことを言う……そうして、どんどん自分をネガティブな方に落としていくのが、本当は好きなんでしょ? それに、どんな音楽を好きになろうと、それは人それぞれ自由なんだし、何がいいとか悪いとかは、音楽なんて、特に断定できないじゃないですか」
「そうかもしれんな。つきつめれば、主観やからな。でも、その主観が三峡ダムに溜まった水みたいに客観となるのが、ワシは気分が悪いんや。
音楽の神さまを、いっぺんドヤしつけたらなあかん。
ほわまに、こんな歌がええとされる世の中なら、マジ、わし、さっさと死んでこの世からオサラバしたいわ」
「だから…何度も言うように、嫌でもいつかは、みんな死にますから」
「とりあえず、今日は布団かぶって、寝る!」
「ハイハイ」。
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