エッセイの素(病床日誌No 4)
その4
《某月某日》
今からわずか5年前(※執筆当時)2012年9月11 日、リビアの第二の都市、いわば日本の大阪にあたる"ベンガジ"にあるアメリカ領事館が武装集団に襲われた。これが世に言う《ベンガジ事件》である。
そこで殺害されたのが、クリス・スティーブンス米リビア大使だった。
この大使は、わずか1年前にカダフィ大佐の惨殺を直接指揮したCIAの特殊部隊の責任者でもあった。
大使は、軍事的かつ国家的機密にあたる重要な事案を、逐一本国にいる直属の上司から判断をあおいだ上で、そのとおりに実行していたことがわかっている。
その上司というのが、当時の米国国務長官であり、指示はすべてメールでやりとりされたのだった。
つまり、リビアで行われたアメリカによるカダフィ政権転覆のシナリオは、殺害されたクリス・スティーブンス大使の直属の上司である、米国国務長官の意思によるものだったということである。
その膨大な量の交信記録が流出して、大事件、大スキャンダルに発展した。
それがいわゆる《ヒラリー公文書メール問題》だともいわれている。
まさに、国家が犯した許しがたい犯罪行為の証拠の山としか言いようがない。
このヒラリー国務長官とクリス・スティーブンス大使との通信文書の中には、
「カダフィを殺してしまいなさい」とか、
「集めたお金の処理をしなさい」
という生々しい文書が数多く含まれていたという。
ちなみに"ベンガジ事件"においてヒラリーは、襲撃されていた自国民たる仲間に救援部隊を送らず、見殺しにしたうえで、オバマ政権として積極的に事件を歪曲捏造報道して責任逃れに奔走した。
ちょうどオバマ大統領の再選を間近に控えていた時期だったからである。
トランプは悪人かもしれない。
しかしヒラリーは、私には悪魔に見える。
アメリカ国民は先の大統領選において、悪魔か悪人かの究極の選択を迫られ、その結果、かろうじて悪人が悪魔をおさえこんだのではないだろうか。
たとえその裏にロシアの陰謀があったとしても、私には最後の最後でアメリカ国民と人類が、首の皮一枚で救われたのだと思えてならない。
泥棒と詐欺師とが政権を争い、いまだ国際社会に目を向けないまま小学校の砂山で足を引っ張りあっている日本に比べて、たしかに西洋人は悪さのスケールが異なる。
複雑な安心感が今日も私の病床に沁みついている。
きっとこれを平和と呼ぶのだろう。
お薬のんで、少しまた、良い子でねんねしよう。