エッセイ 人間国宝 60になったら
まっ昼間から ブルースを聴いている。
アメリカではなく、大阪のミュージシャン。
有山じゅんじ さんの、"Thinkin’Of You"
開け放った窓から 風がとろける。
真っ黒な小鳥が飛んでいた。
ツバメだったら、あんなふうには、羽ばたかない。
カラスの子供とも、とうてい思えない。
真っ黒な小鳥が見えるのは、お迎えが近いということか?
真っ黒な猫なら沖田総司が、斬っても斬っても斬れなかったそうな……とは言うものの、あれは子母澤寛の創作だという説が強い。
真っ黒な小鳥が見えたのは、
ブルースを聴いていたから?
真っ黒な小鳥がはばたいたのは
外の日差しが眩しいから?
水田にアイガモが泳いでいる。
二羽並んでスイスイ泳ぐ。
そのあとあぜ道にあがって語らっている。
あれもこれもそれも、この世が夢だという証左に思えて仕方がない。
「♪ 50歳になったら全部ばれる〜」
まっ昼間から、有山さんが、そう歌った。
「ほんなら、60歳になったら、いったいどないなんねん?」
ふと思いだし、古い写真を探した。
撮り手が素人ではなかったので、写真が生きている。
たしかこの時は、有山じゅんじさんからの質問に答えていた瞬間である。山口、湯田温泉駅前の、ダダで。
質問の内容は?
「人間国宝と、国民栄誉賞と、どっちがギャラがええのん?」。