人生の居合斬り
「せんせ、相手はどんな奴でした?」
「40歳代の、チンピラですわ」
「どない、カマしてました?」
「俺は怖いもんなんかナイ、警察かっていっこも怖ないから、呼びたかったらいつでも警察呼べ!、と、そう吠えとりました」
「わざわざそんなセリフを吐きよりましたか…なるほど、チンピラですね」
「まあ、組の名前は、それとなしにチラつかせてましたが、確実にあれは素人でっしゃろな」
「そうでしょうね、まあそやから◯暴やのうて、わしらが来たんですけどね……」
以上は、その昔、兵庫県警の管轄下のある店舗で、私と刑事とのあいだで実際に交わされた会話である。
問題の輩(やから)は、ことさら自分は警察は怖くない、と強調したが、これは実際は怖いという本音の情報を垂れ流しているだけなのだが、本人はそう思われていることには、まったく気づいていない。
さて、なぜこんな話を蒸し返したのかと言いうと、つい先日、これとそっくりなことがあったからである。
ただしその時は、「警察」ではなく「お金」。
もう、バレバレやなのに、何度も何度も、最後までひつこく、強調、言い訳を繰り返すのだ。つまり、
「お金の問題やない」と。
さらに、ぜんぶ自分がひっくり返してぶちまけた、みんなで囲んだ食卓鍋やのに……
「お金が理由では、ないことだけは、わかってほしい」と……最後まで自己擁護でしめくくった、卑怯者の捨てぜりふ。
とにかく、こういうタイプとは、一切私は関わりたくない。
怒りとかではなく、せっかくの私の快適で崇高な精神生活、純粋な奉仕の精神を逆手にとった、邪悪な欲望の渦や唾液のしぶきで乱されるのが嫌なのである。
ビジネスの世界で、バタフライをして泳いでた頃は、こんなことはしょっちゅうだったが、金儲けの現場を引退してからは、初めて……そう、ひっさしぶりの体験だった。
腐ったリンゴは、未練を残さずスパっと、切って捨てる。
私の刀は今も斬れ味抜群である。
一度明確に見抜いて見切れば、一切躊躇しない。
なんせカラダが小さいから、人に馬鹿にされる。 バカにされちゃあ、この稼業で男になれない。
そこで、居合抜きをならった。
山椒小粒でヒリリと辛いよ……なのだから……。
あまりの鮮やかさに、斬られた方も、その時にはほとんど血が出ない。痛みも感じない。いったい何が起きたのかもわからない。
痛みは後になって、次々と深刻に襲ってくるに違いない。
世の中、いつまでもまわりを騙して利用できるわけではないのだ。
問題は、私が他のリンゴもみんな嫌いになってしまうことである。
これは、要注意である。
マハトマ・ガンジーが言ったように、人類にも、ミュージシャンにも、失望してはいけない。
汚れているのは、いつも一部なのである。
海全体は、決して汚れてはいないのだから。