ドキュメント 怪しさ満点 山口大学アメリカンフットボール部
数年前の話です。
山口大学アメリカン・フットボール部と、何度めかのミーティングをしました。
回を重ねてきて、ようやく相手も、私に冗談のひとつも言えるくらいにまで、気を許すようになってきました。
その時になって、初めて明かされた、衝撃の事実。
つまり、私とのファーストコンタクトの時のイメージです。
それは、私が最初、チームにメールを送ったところから始まりました。
そのメールが、とにかく怪しさ全開で、チーム幹部はもちろん、学校側、顧問なんかとも相談して、
危ない相手ではないか?
新手の詐欺ではないか?
架空請求で、あとで破格な不当請求をされるのではないか?
そもそも反社会的勢力ではないか?
などと、あらゆる不安が盛り上がったそうです。
それでも、事務所の住所や会社の名前なども明記しているので、まずは会ってから判断しようということになり、
8割がた詐欺だと思いながら、初めての打ち合わせのために、山大のすぐ近所にあるウチのスタジオに来たそうです。
もちろん、チームで一番、ガタイが良くて、なおかつ足が速い2人が。
「ええかげんにせえよ! ちゃんとこちらの主旨や自分の身分も明記して、礼を尽くした、きちんとしたメールを送ったやないかい?」
「いや、それがまた、余計に怪しさ満点やったんですよ」
「どこがやねん!」
「だって、よくあるやないですか? 100万円当選しました、みたいなメール」
「そんなもん、俺の名前でネット検索したら、怪しないってすぐにわかるやないかい」
「本人かどうか、わからないじゃないですか、それに、なりすましもありえますし。それで、最初、ここの場所も、なかなか、わからなくて……」
「そやから必ず、Googleマップ を見て来な、他のナビとかは嘘つくからと、注意事項を伝えたやないかい」
「それでも、わかりにくくて……こんな山奥やし、行き止まりやし、奥に逃げ道ないし……それで2人で、コレは絶対に"ヤラレタ"と、確信してたんです」
「ちょっと待て、その時点で何も被害が発生してないやないか? いったい何をヤラレタと言うんや?」
「そうですけど……まあその時は、先入観で決め付けてました」
「ほんで、実際におうて話しして、どないやったんや?」
「いや、あまりにこちらとしては、話しが美味し過ぎるなあと……」
「当たり前やないか? 最初から、オマエら学生から金をとるのが目的やない。
まして、客から金儲けするのも目的やない。
せっかく関西から、別の企画でアメリカン・フットボールの専門家を呼ぶから、ちょうどええ機会やねんから、一緒に盛り上げよ、と、言うてるだけやないかい、それのどこが怪しいんや?」
「怪しさ満点ですよ」
「オマエ、やたら満点ってことば使うけど、なんか満点にコンプレックスがあるんか?」
「そんなことないですけど……それで、初めて、クボさんと会って、話を聞いて……」
「おう、話しを聞いて…? それで?」
「2人で、帰り道、やっぱり怪しい。どうしようかと……」
「なんでやねん! 顔見たあともかいや!
わかった! オマエら帰りしなに、ちょうど、"アノアとペロ"が、温泉から帰って来て……そうや、ペロの実物を見て、それで怪しいと思ったんやろ? それなら話がわかるわ」
「違いますよ、クボさんの方です。怪しさ満点は」
「また、満点ゆうたな、この満点オトコ!
オマエらだいたい、見る目がなさすぎや、人間が小さすぎる、もっと本質を一発で見抜かんかい? そら、危険予知能力は大切やけどな…」
「重要な危機管理のうちですよ、それも」
「危機管理? そんなもん、日大に教えてもらわんかいや」
「それで、今さらですけど、どうして私らみたいなチームに、わざわざ声をかけてくれたんですか?
応援しようと考えたんですか?」
「若い奴を応援するのに、理由が要るんか?」
「いや、ないとかえって怪しいですよ」
「満点か?」
「はい。怪しさ満点です。
それに、僕らがチームの人間に、クボさんのことを説明できないじゃないですか。
ラジオやってる、とか、テレビやってると言っても、それがどんな人か伝わらないでしょ?」
「ワシは作家や、作家。便宜上会社もやってるけど、山口で超有名な作家や、それで十分やないかい」
「それで、ボクらのチームを応援しようと考えた、きっかけは、いったい何だったんですか?」
「そら、濱田がやな……濱田篤則 な、関学で甲子園ボウルにも出て、今、日本アメリカンフットボール連盟の、審判部長かなんか、偉いさんのはずや、
テレビの解説とか、ずっとタージンと濱田がやってたんや、ガオラとかで、
そいつが、ワシの関学中高の同級生で、今度山口に来るわけや。
その濱田が、山口は、山口大学にアメリカンフットボール部があるみたいやから、どうせイベントをやるんやったら、大学生を巻きこんで、彼らの意見や要望を聞いたってくれ、
それに優先的に答えるからとゆうから、じゃまくさいのに、嫌々ワシはオマエらに声をかけたんやないか」
「最初にそれを言ってくれたら、僕らも心配しなくてよかったんですよ」
「そら何か? ワシより濱田の方が信用できるということか? 実際に会うたことのない濱田より、目の前におるワシの方が怪しいんか?」
「そら、そうですよ」
「オマエら何も知らんからや……濱田な、体重120キロあるねんぞ、あとちょっとで、自分で自分のケツ拭かれへんねんぞ、そっちの方が何倍も、ワシより怪しいやないかい」
「いや、そういう問題やなくて」
「それで? 今はその、怪しさに対する不安は、払拭されたんか?」
「だいぶ、わかってきました」
「だいぶ……かい? この前、わざわざ広島くんだりまで試合見に行ったやないかい。負けたけど。
それに、差し入れのオレンジジュース、美味かったやろ? わざわざ取り寄せてんぞ、山大前の、アルクにもダイレックスにも、コスモスにも売ってへんぞ」
「あっ、ありがとうございました。美味かったです」
「そうか、また差し入れするわ」
「お願いします」
「いやあ……きょうは、ええ勉強になったわ」
「何がですか?」
「ワシらはプロやからな……どうしても、プロの目線でモノを見るやろ?
それが、素人の目にどう映るか? そこがようわかったということや。
「なんのことですか?」
「そうか……初対面やと、そこまで怪しいように見えるもんなんか……こんなええ人間やのに……」
「はい。 怪しさ満点です」。