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七文字の値打ち
久保家代々の墓の霊標を見て、良かったと、納得したことがある。
前にも書いたことがあるが、長門で、葬儀屋から、
「この地域は99%が浄土真宗なので、臨済宗の戒名はようつけん」と、いわれたので、京都の禅寺の高僧にお願いして「ロハ」で、亡父治司の戒名をお願いした。
ちなみに「ロハ」とは、業界用語で「無料」のことである。只(タダ)という漢字を分解すると、「ロ」と「ハ」に、なるからだ。
「今日のライブは、ロハ やから」と、言われるのが、ミュージシャンはいちばんこたえるのである。
さて、当初、亡父治司の戒名も6文字だったのだが、夜になって、
「研ちゃんのお父さんやから、やっぱり、あと一文字足そうと思います」
と言われて、結局治司の戒名は、訂正後、
「随法真治司故士」 …つまり7文字になった。もちろん私が求めたわけではない。
さて、もしもこの戒名で、治司が久保家の墓に入った場合……。
治司の、父親、母親、兄夫婦が、全員きれいに6文字で並んでいるその左に、治司が7文字で並ぶわけである。
ご存知のとおり、禅宗の戒名は文字数が多いほど生前の功績が大きい人で、さらに名付けの料金が高騰する。
墓の先住たる4名の中でも、最も生前、人望、人徳があったのが、祖父である。その祖父ですら6文字。つまり、一般人扱いなのだ。
墓に刻まれた戒名だけを見れば、治司は、一族で、頭をひとつ突き出すことになる。
あの世でもこの世でも、誰もがきっと口をそろえて、叫ぶだろう。
「なんぼなんでも、そら、おかしいわ!」と。
ちなみに「全義院東行暢夫居士」 という長い戒名。
これは9文字である。治司よりも、さらにふた文字多い。
この9文字の戒名の俗名……つまり生前の名前は、高杉晋作 と言う。
はっきり言って、私自身は、墓とか戒名とか、まったくこだわりがない。
残った人が好きなようにしてくれれば、それでオッケー。
でも、治司はちがったから……これでいいのだ。