エッセイの素(病床日誌 7)完結
その7 《某月某日》
最近特に思う。
「人生は、燻製(くんせい)だな」と。
そういえばその昔、高校の遠足かなんかで津山の博物館を訪れたさいに、当時の英語のN先生(故人)が、ヒグマの剥製の展示の前で、
「クボくん、スゴイ"くんせい"だね」と言ったことがあった。
さすが英語の先生だと感心した。
また同様に、我が恩師である柔道の豪傑M先生が、これまた、クマに勝るとも劣らないゾウアザラシの剥製の前で腕組みをして、
「オレでも負けるなあ……」と、つぶやいたそうだ。こちらは直接聞いたわけではない。直後に学友が、爆笑を押し殺しながら、私に報告したから知りえたのだが、真実であると信ずる相当な理由があった。
一、高校教師にしておくのはあまりにもったいない……昔も今も、さすがに個人の強烈なキャラクターによって、独特の人間的迫力を醸し出しておられる。
いろいろ考えるに、
やっぱり、"人生は燻製"である。
そして、死ねば"剥製"になるのだ。
そしてそのあと、火葬場で焼かれるのだが…この文章も、きっと……。
エッセイの素 シリーズ 全7篇 これにて完結