映画『空に住む』感想 (もしくはなぜ柄本明の出演シーンはあれだけなのかの推察)
あんまりおもしろくなかったー、と簡単に書いていいのか迷いますが(なんせ2010年 キネマ旬報ベスト・テン第9位だ)、まず第一の感想がこれです。
監督がベテランなので、観ていると気づくところはいくつかあります。そもそも最初のカットが監視カメラのような画で始まる。これはつまり、誰かに寄り添うようにではなく、観察するように観てくださいねー、ってことなんだろうなと思いました。
主人公の高層マンションの高い所に住み、民家のようなところで低い所で働くという、高さによる違い(演出)が描かれます。ちなみに働き場所の低さ、というものは徹底されていて、働いているときの使われているイスは座椅子です。
ちなみに妊娠していて高層マンションを羨んでいる友人は、階段で破水します。階段というのは、知っての通り、低いところから高い場所にあがるための場所(逆もある)です。
そして、映画のテーマ(この言葉は嫌いですが)としては、ペット葬儀屋の男が話していたことだと思っています。少しおぼろげな記憶ですが、並行する線も宇宙まで伸ばしてしまえばいつか交わる、といった内容だったはずです。
つまりこの映画は基本的には並行して交わらないキャラクターたちを描いた映画なんです。そのために高さというものを使って交わらない様子を描いているのです。
そういえば高層マンションのコンシェルジュには柄本明という有名な役者を使っていました。これは一見無駄遣いに見えるがそれは違います。ここで柄本明が出てくることにより、この人と何か起きるんだろうなと、観客は勝手に思います(柄本明というのはいかにも何か起こりそうな雰囲気があります)。そしてついに主人公との交流が始まるかと思ったら、あっさり異動になって消えていくのは、交わらない平行線を描くためです。
途中、主人公は雲のようと例えられます。主人子が雲だとして、その雲の前にやってきたのが人気俳優の男です。主人公の窓から見える看板に『WILD IS THE WIND…』というキャッチコピーで宣伝に使われている彼は、激しい風となって、雲(主人公)は流れていきます。この流されている状態を、肉体関係があっても、平行線のまま(交わっていない)と私は捉えました(ちなみに彼は彼で、風が吹いて芸能界に入った、将来は地に足をつけたいなど、視点を帰れば彼も1つの雲なのかもしれません)。
そして映画の終盤、交わらないものが交わるようになっていきます。受け身だった主人公が本を出そうと役者にインタビューすることにより、役者は小説を読み、小説家は役者のインタビュー音声を聞いています。本来交わるはずのなかったものに、交流が生まれているのです。
で、最初に戻るんですが、この映画があんまり面白くなかったんですね。
映画というものが、そもそも並行して交わらないものを描くのにあんまり向いてないんじゃないかなー。
ただ監督が何にも似ていない映画が出来た、というのはその通りで、そこに価値を見出しての2010年 キネマ旬報ベスト・テン第9位なのかもしれません。