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学びの種 #003「辞書で書物占い」

辞書で書物占い。コトバとの「偶然の出会い」を楽しむ。


 最近は、大学生も紙の辞書をほとんど使わなくなって、スマホを辞書がわりに使うことが多くなりました。スマホでコトバを調べるようになると、ピンポイントでその言葉にアクセスできるようになった反面、前後や周辺の言葉との「偶然の出会い」ができなくなったといえます。そこで、今回は紙の辞書との面白いつきあいかたについてお話します。
 三省堂の『新明解国語辞典』という辞書があります。「シャープな語釈」が定評で、赤瀬川原平さんが『新解の謎』(文藝春秋、1996年)で、この辞書の面白さを紹介して以来、あらためて注目されるようになりました。
 よく引用されるコトバのなかに、次のような「恋愛」の解釈があります。

れんあい【恋愛】
特定の異性に対して他の全てを犠牲にしても悔い無いと思い込むような感情をいだき、常に相手のことを思っては、二人だけでいたい、二人だけの世界を分ち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念が生じれば不安になるといった状態に身を置くこと。
                         (新明解国語辞典)

 読んでいるうちに、思わずからだが動いて、身ぶり手ぶりで表現したくなるような演劇的な文章ですね。このコトバの上の段には「レムすいみん【レム睡眠】」があり、すぐ右には「れん【聯】」、すぐ下の段には「れんきんじゅつ【錬金術】」、ひだりには「れんけつ【連結】」などが登場します。すこし視野をひろげると、「連」に関連するコトバが多くみつかります。このようなコトバとの「偶然の出会い」は、紙の辞書ならではのものです。

 さて、「新解さん」の面白い使い方を発見しました。それは、「書物占い」です。『魔法の杖』という占いの本があります。深呼吸をしてページを開いたところに書いてあるコトバを、その日のお告げにするという本です。いわゆる「ビブリオマンシー」(bibliomancy)(書物占い)です。

 そこで、「新解さん」を手に取って、深呼吸してページを開いてみましょう。見開きのページにあるコトバの解釈で笑えれば、その一日はOK。つまらないコトバでも、そのコトバを楽しめるくらいの心の余裕があれば、良しとしましょう。

 最後に、辞書の楽しみ方についてふれておきます。これについては、サンキュータツオさんの『学校では教えてくれない! 国語辞典の遊び方』が参考になります。

 サンキュータツオさんは、国語辞書にはどれも個性があり、「かばん」みたいなもので、TPOや用途に応じて使い分ければよい、といっています。ちなみに、本のなかでは11種類の国語辞典がキャラクター分けされて紹介されていて、「明解さん」は「マイノリティの味方! ワイルドな秀才」と表現されています。

辞書

         『学校では教えてくれない! 国語辞典の遊び方』より

(今回の記事は、休眠中のブログ「ショッピングの人類学」から一部転載しました。)


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