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里都まち♡なかいわいがやサロンレポートvol.6|声がかたちになるとき

11月23日(土・祝)の「里都まち♡なかいわいがやサロン」第6回のテーマは「まとめ」。新しい生涯学習施設の設計で道筋となる「基本計画」という文書に、町民の声を書き残しました。十人十色の思いを、法律や予算といった制約と照らしあわせて、より多くの人が納得できる着地点を探りました。

これまでの道筋
第6回は、いよいよ「わいがやサロン」の最終回。今までのサロンの流れをおさらいしましょう。

第1回から第4回では、参加者同士の対話や先行する公的施設の視察を通して、新しい生涯学習施設への夢をふくらませました。また、その夢をもとに生涯学習施設の理念や望ましい機能をまとめた「中井町生涯学習施設建設基本構想(案)」(以下、基本構想案)という文書を作成しています。

第5回の「美・緑なかいフェスティバル」への出張わいがやサロンでは、構想案でまとめた意見をシール投票にかけました。これで、次の段階で検討すべき町民の関心事項はなんなのかを調べています。この第6回ではシール投票結果をもとに「中井町生涯学習施設建設基本計画(案)」(以下、基本計画案)をまとめます。

シール投票を行った模造紙は会場の農村環境改善センターでも掲出されています

「基本計画」とは、生涯学習施設の目的や機能・設備、設計者に求められる考え方を、設計の道筋とするためにまとめた現実的な文書です。公共施設設計へのアドバイスに携わり、サロンのまとめ役であるアカデミック・リソース・ガイド株式会社(arg)代表取締役の岡本真さんは、参加者に「基本計画に基づいて生涯学習施設が設計されます。さまざまな声をどう反映するか、一つずつ考えましょう」と呼びかけました。

マイクを握りながら、基本計画案を頭上に掲げているのが岡本さん

会場のテーブルには、シール投票にかけた「基本計画で検討すべきこと」を56個まとめたリストと、基本計画案が配られていました。「社会教育法」が定める施設の要件や予算、想定面積、建築技術的な問題といった制約と、町民の思いを照らしあわせて折衷し、合意を探りながら基本計画案に書き込む─。そんな地道な作業が始まります。スクリーンには基本計画案の入力画面が投影され、岡本さんがその場で文書を編集していきます。

各テーブルに配られた56個の項目をまとめたリスト(写真上部)と基本計画案(写真下部)
おとなりの参加者同士で文書のページを繰っている人たち。今日のサロンはいつもに比べて緊張感があります

シール投票で圧倒的な投票数を集めたのが「障害者施設の一室」という意見。新しくできる施設は障がいのある人も集える場所があること、誰もがあたりまえに利用できる場所であるべきだという意見が多くの人に支持されました。

また、もう一つ関心が集まったのが防災機能。災害時に一時的な避難所として開放できるように備蓄庫や防災・減災グッズを置くことなどの運営方針が、基本計画案に書き込まれました。投票数の多さで意見に優劣をつけるわけではありませんが、誰もがあたたかく受け入れられること、人の命を守ることが最初に書き残され、思いがかたちになりました。

地道な対話が続く
岡本さんはマイクを回して「なにか伝えたいことはありますか?」としばしば問いかけました。町民の声が上がれば、岡本さんは計画と設計に落とし込める現実的な表現を提案します。この作業は午後1時半の開始から午後5時まで続きました。

岡本さんの話に耳を傾ける参加者たち

子どもや高齢者でも集える庭や駐車場といった施設の外側の機能について検討していたときに参加者が手を挙げました。そして、障がいのある人の立場を代弁しました。

「障がいのある方の外出で、一番大変なのはお手洗いです。障がいのある方も安心して使えることや防災施設になることを考えると、大きな車椅子で寝たままの状態でも入れるようなお手洗いは必要だと思います」

雨天でも車椅子が濡れずに通れる屋根付きの広い通路や段差のない空間など、「誰もが年をとっていくので安心できる場所をつくって」と話す参加者

岡本さんも同意を示し、「基本計画にはインクルーシブデザインの考え方に基づいたお手洗いを確保することを特記している」と伝え、「どういうときでも安心して使えることはとても大事です」と新しい施設の理念を再び共有しました。

町の文化財保護委員会に関わっていた方からはこんな意見が。

「中井町郷土資料館は近現代の農具が中心で、歴史的なものが少ない。でも中井町でも古墳時代の『鉄製 直刀』といった貴重な文化財が出土しています。町の歴史を伝える展示ができる郷土資料館をつくっていきたい」

それに答えたのが、基本計画案のまとめや設計者選びで助言を行う建築家の遠藤克彦さん(株式会社遠藤克彦建築研究所)。公共施設や文化施設をあまた手がけてきた経験をもとに、設計や手続き上の難しさを伝えます。

会場に駆けつけていた建築家の遠藤さん

「文化財を継続的に保存・展示するためには、建物全体の防火・防災対策などの基準が厳しくなり、いま予定している予算の2倍くらいはかかります。現実可能なラインを設計者が調整・相談することになりますが、町のテーマとして考えたいですね」

遠藤さんに続いて、岡本さんも「郷土資料館も建て替えになる以上、その機能は必須。町の大事な宝を残すことは実現したい」と参加者の意見を受け止めました。

「学童保育(中村、井ノ口合同)」といった子育て支援に関する項目でも、意見が交わされます。「学童保育は学校の近くにあるから、いらないのでは」という町民もいる一方で、こんな意見も。

「友達と安全に遊ぶ場所がほしいということかなと思います。ゆるやかに大人たちが目を配ってくれたらいい。公共交通機関の本数の関係上、親御さんがお迎えに来るまでの待ち合わせに使うご家庭も多いと思います」

岡本さんはうなずき、「エントランスロビーや図書館を活用し、子どもを町で見守る意識があれば実現可能ではないか」と提案。町民の目は優れた防犯でもあると伝えました。

そのほかにも、スポーツや文化芸術に親しめる体育館や劇場の規模について、多様な資料にアクセスできる図書館のあり方など、それぞれの「これだけは!」という意見が共有され、濃い時間が過ぎました。

町を象徴するマスコットキャラクターのなかまる。この時間を、静かに見守ってくれていたようです

この対話で更新された基本計画案は、中井町公式ホームページで公開されています。サロンに参加できなかった人も安心してください。公式ホームページで、町民意見(パブリックコメント)を募集しています。

この先はどうなる?
生涯学習施設の設計者を選ぶための「公募型プロポーザル」を、今年12月から来年2月まで、町が実施します。町は、参加する事業者に対して、技術力や経験、事業にのぞむ組織体制などをまとめた提案書(=プロポーザル)の提出を求め、公正に審査して設計者を選びます。向こう100年近い年月にわたって、中井町に変化をもたらす生涯学習施設。設計する人に求められるのは、町の未来に長く寄り添えること。そして町民と膝を折って対話ができることです。
 
今年度の「わいがやサロン」は、第6回でひとまず最終回。それでも岡本さん曰く「まだ序盤戦」。続けてエールも送ります。
 
「今日、あなたの声を反映できなくても、この先にそれをかたちにしていくことができるはずです。だから、『ちょっと自分の思いが伝わってないな……』と思ったら、ぜひ諦めないで言いつづけてください」
 
遠藤さんも岡本さんからバトンを受け取るように町民に敬意を伝えました。
 
「皆さん、意見をまとめるのも大変だったと思います。選ばれた設計者は『こんなに意見があるのか』と驚くでしょう。皆さんがこの建物へ真剣に期待していることが伝わります。50年、100年使って『よかった』と思えるようなものが建つまで支援するつもりです。皆さん、ぜひこのプロジェクトに関わりつづけてください」

長いあいだ、お疲れさまでした!

これからもあなたの声を聞かせてください

🗳️パブリックコメント
中井町では基本構想および基本計画のまとめにあたって「町民意見公募手続き(パブリックコメント)」を行います。

提出方法
郵便、電子メール、ファクシミリ、持参のいずれかの方法で生涯学習課へ提出してください。

農村環境改善センター、井ノ口公民館、境コミュニティセンターに設置されている提案箱へ投函してください。

下記の問合せフォームに投稿してください。https://www.town.nakai.kanagawa.jp/soshiki/shogaigakushukashogaigakushuhan/kocho_koho/1/3259.html

提出期限
2024年12月23日(月)まで

 中井町公式ホームページ「パブリックコメント」https://www.town.nakai.kanagawa.jp/choseijoho/kocho_koho/kocho/1/3260.html


📄生涯学習融合施設(仮称)基本・実施設計者選定 公募型プロポーザル
中井町では、新たな生涯学習融合施設(仮称)整備に向けた設計者選定を、公募型プロポーザルにより実施します。

中井町公式ホームページ「【公募型プロポーザル】生涯学習融合施設(仮称)基本・実施設計者選定」https://www.town.nakai.kanagawa.jp/choseijoho/3322.html


最新の情報は、中井町のホームページやSNSをご覧ください。
中井町公式Instagramアカウント
https://www.instagram.com/nakai_town/

 

取材・文:中尾江利(株式会社ボイズ)
撮影:菅原康太



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