別れの風景(2) [第31話]
別れの風景(2) [第31話]
雨が降っている。雨が窓に打ちつける。私は、外の景色をじっと見ている。黙ってその私を見ている鶴さんは、黙っていても始まらないので何かを話しかけるが、私はただ過ぎ行く景色を見ながらこれから再訪する鎌倉の街を思い出している。少しずつ悲しみが突き上げてくる。
景色は過ぎる・・・・。
過ぎる駅・・・・。
駅。
北鎌倉駅を降りたときから雨は降っていた。
鶴岡八幡宮で傘をさして写真を撮った。ピンクの傘の色が反射して頬までもピンクにしている。ファインダーをのぞく私は、鶴さんの放つ雰囲気に引き込まれシャッターを押すのを忘れてしまっている。鶴さんはじっとうつむき加減にひとつの点を見つめている。雨のしぶきが足にかかる。まだ少し寒い。傘を持つ手が冷たい。
東京に帰る横須賀線。電車の中で、向かい合わせに座って写真を撮り続けている。4人がけのボックス席で二人、悲しみなどは忘れて恋人同志のようにはしゃぎ回ってみたり、顔をじっと見つめ合って静かになったりの繰り返しをしている。たった今、鎌倉駅の前の喫茶店で「キミを置いて京都に行くなんてのは嫌だ!」と駄々をこねて、周りの人にクスクスと笑われたばかりなのに。「鳴いたカラスがもう笑ろた」とはこのことみたいだ。
東京を去る日の午後くらいは、今まで歩いた銀座の街を肩を組んで歩いてみたいと思った。小樽以来に4年ぶりの再会をした銀座のソニービルのテレビの前にも寄った。有楽町の街にはいつもながら人があふれている。ひとつビルを裏に入ると、とても粋なコーヒー屋があった。いつも行く洋風居酒屋(パブ)とは違って「僕はキリマンジャロ」なんていって、気取っている。
新幹線がホームに滑り込んできた。鶴さんの、にっこりとして話すときのえくぼがかわいい。
「いよいよね」
「これだけ言っても京都には一緒に来れないのかい?」
「うん・・・」
「・・・・・・」
「もういかなきゃ、あなたは京都で偉くなってね」
人の動きが止まった。ベルがなる。私は座席に急いで荷物を置いてホームを見た。鶴さんは小さく手を振ってくれている。列車の扉が閉まった。私は、じっと彼女を見つめている。そうするしかない。
滑るように少しずつ列車は動き始めた。
その時突然、彼女はうしろに振り返ってしまった。彼女の顔が見えなって、その姿さえ追う間も与えてくれずに、列車は一気に加速をしてゆく。私は身動きもとれないままだった。新宿のビルの明かりが雨で霞んで見える。街は相変わらず無表情だった。