初めての彼氏 ❹
花より華やかなネックレス
門限の20時を30分ほど過ぎて帰宅した私は、母の叱責から逃れるよう、足早に自室へ入りました。
その時の気持ちは、なんとも形容し難いもので、勿論ひとくんとの関係が変わったことへの純粋な喜びもあったのですが、「誰かの彼女」になったことで、初めて、自分が何者かになれたような気がしたんです。
どんな日々が待っているのかは、まだ想像することも出来なかった、初めての経験。ただ、嬉しく、幸せに思いながら過ごした夜でした。
それからの私たちは、挨拶程度だったメールの頻度を大幅に上げ、週に2回ほど公園で過ごし、互いの理解を深めていきます。
立川公園で過ごす何度目かの放課後、ひとくんは「トイレに行くから待ってて」と、公園にほぼ併設されていたスーパーへ向かいました。
10分ほど待ったでしょうか、なかなか戻ってこないなあと心配になった頃、ひとくんは、手のひらほどの小さな茶色い紙袋を持って戻ってきました。
ひとくんが向かったスーパーの中には、小中学生から人気を集める小さな雑貨屋さんが入っていました。
高校生の私は、滅多に覗くことのなくなったお店だったのですが、そこの紙袋だと気付きました。
「これ、プレゼント、1番似合うなって思ったやつにした」と、笑顔で渡された紙袋の中には、中央に花の揺れる、ステンレス製のネックレスが入っていました。
初めての恋人から贈られた、初めてのプレゼント、心底驚き、そして心底嬉しかったことを覚えています。
きっと今の私ならば、店のターゲット層考えてよ、なんて心の中で悪態をついてしまいますが、そんなことは露ほどにも思わず、純粋に幸せを噛み締めました。
自分ならば絶対に選ばないお店でも、あまり好みじゃない花のモチーフでも、それでも何よりも輝いて見えましたし、身につけるだけで自分自身が華やかになったような気さえしました。
理由は後ほど書かせて頂きますが、この時にひとくんから貰ったネックレスは、17年経った今でも、大切に保管してあります。
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