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日本のサウナと、ととのえ親方

10年ぐらい前だから共通の知人を介して紹介してもらった男がいる、松尾大という。札幌にある工藤順也さんが握る「一幸」という鮨屋があり、どうしても食べてみたくて足を運んだ。それからというものの札幌に居住を構える松尾大ちゃんは、札幌に行くときは必ずお世話になることになった。

その経歴もさることながら、とてもユニークな男だ。財布は自身のパスポートに色とりどりの輪ゴムを付けてカードやら現金やらを入れている。食後はそこからさっと小林製薬の歯間ブラシを取り出して、OAKELYの黒セルフレーム越しにニコニコしながらところ構わず歯磨きをする。

一度さ、パスポートの中に現金なり色々と入っているものだから、海外の入国検査で賄賂と間違えられたことがあってさ、そのときは大変だったよ。

そんな彼が訪れるたびに一緒に連れて行ってくれたのが豊平峡温泉だった。入り口に留学生の手ほどきで作った本格的なインドカレーがあって、特製セラミック釜で焼かれるナンが旨い。長風呂でビールを飲み終わった後に、彼はこういう人生設計をしてくれた。

浜ちゃん、俺サウナを仕事にしようと思っているんだよね。

ちょうど僕も人生のどん底を経験して、仕事を和牛一本に絞り再起を賭けていたところだった。年もほとんど同じ彼のチャレンジをゆっくりと聞いた。当時、神戸に通っていた僕は神戸の先輩経営者から、こう言われていた。

浜ちゃん、まずは神戸サウナ集合ね。

サウナの入り方など全く分かっていない僕にとって、サウナで集合することも、サウナに入ることも全く意味が分からなかったのだが、いきなり最初に神戸サウナというサウナーの聖地みたいなところで昭和仕込みのサウナーの先輩からサウナの入り方の手ほどきを受けたものだから、数回で「あーなるほど」これは気持ちいいかもと思ったのだ。

そんなベースはあったものの、大ちゃんのサウナの入り方講座は、彼のパスポート代用財布と同じような眼から鱗シリーズだった。

日本のサウナっていうのはさ、ドライ過ぎてさ、本場のフィンランドのサウナはもっと湿度があってカラカラしていないのよ。だから本当はダメなんだけど、人がいないときはバーって壁に水をかけるわけ。そうするだけで全然湿度が違う。

それからというものの全国に和牛を売り込みにいくと必ずサウナを探した。まだここまでサウナブームになるだいぶ前のことだ。このあたりからサウナ専用サウナも好きだが、全国に必ず存在する公共銭湯が僕にとっての地方でのGO TOポイントとなる。銭湯の想いはこちらから読んでもらいたい。

日本では5000ぐらいの公共サウナがあるんだよ。フィンランドでは家に備え付けがほとんどだから、日本が世界一のサウナ大国。これは公共銭湯文化がもともとあった日本だから実現できたことなんじゃないかな〜?

そんな大ちゃんの一言に、WAGYUMAFIAを結成した翌年、僕はコネを使ってフィンランドに飛ぶことにした。そこでサウナ巡りをするのだが、ここで日本とは全く違うサウナというコミュニティの場を経験する。それはロンドンのパブに初めて訪れたときの衝撃に近かった。あー、これが大ちゃんが好きな世界なんだなぁ、と深く感動した瞬間だった。

あれから大ちゃんたちのおかげで、すっかりサウナはおっさんのサウナから、モードなサウナへと進化した。サウナのために旅行する若い人たちも増えてきたし、サウナ専門の雑誌も出版されたりと、一大サウナブームが沸き起こっている。

昨年末都内のサウナで邂逅した僕ら。居合わせた大ちゃんの友達に僕のことを紹介してくれた。

WAGYUMAFIAの浜ちゃん。長くてさ、WAGYUMAFIAになる前から、俺がととのえ親方になる前から知り合いなんだよ。

10年っていう時間は短いなぁっと思った瞬間だった。まだまだお互い道半ば、あのときの豊平峡温泉での二人の夢物語。まだまだその続きがあるのだから。

さて今日は帯広の湖でととのえてこよう。

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