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WAGYUMAFIAの鐘の音
WAGYUMAFIAの鐘のアイディアは、築地時代のマグロに遡る。当時の鐘の鳴りは5時少し過ぎだったように記憶している。ドミノ倒しのように3列から鳴り響く、ハンドベルの音が早起きのご褒美のように五臓六腑に突き刺さるのだ。昨日もAFURIの中村社長とそんな話をしていたが、WAGYUMAFIA THE PROGRESSIVE KAISEKIオープン時は全くボトルオーダーがなかった。「和牛だからシャンパン一本でも開けば色気が少し出るのにね」と色々な支援者に言われた。そこから必死にどうやったらボトルを開けてもらえるかを日夜考えていた。その年の大晦日、友人がラスベガスに誘ってくれてカウントダウンをした。彼が取ってくれたブースは500万程度、飲んでも飲まなくても最低のMGが500万という席だった。そこで花火を巻きまくったシャンパンを持った女性が爆音とともにやってくるシーンを久しぶりにみた。それも何十本もだ。すぐに日本に戻って西麻布で取り入れた天井の低い西麻布では煙が蔓延してすぐに火災警報機を全開作動させた。
今思うと、その時けたたましく鳴り響いた警報機の音が、あの競りの鐘の音を運んできてくれたのかもしれない。そこからハンドベルがいよいよ登場することとなる。世界で使うようになり、「鐘鳴らしまくるやつらだろ!」とパーティでも話題になったのだった。数年経ってから競りのハンドベルでは物足りなくなり、世界中で鐘を探して今ではナポリで特注するまでになった。そこからまた数年立ち、YATCHABARの登場となる。そこでは日本の音を探した、たどり着いたのは梵鐘である。さすがに小さな店に梵鐘を取り付けるわけには行かないから、その音のイメージをもとに日本の音を探すこととなる。そしてたどり着いたのが、南部鉄器で作られた鐘だった。
新しく作る長崎にも鐘の音を探した。今度は船の音を探したのだが、どうも僕の中の音とは違った。そして僕は再び今日盛岡に立っていた、音の違いをもう一度聞きたかった。目を瞑って聞きながら、一つの鐘を選ぶ。あの空間の中だったらこの音が一番似合うような気がしたのだ。すぐに長崎のデザインチームと話して、サイズの調整に入る。そして思いっきり鳴らしても鐘が吹き飛ばないように(笑)と作家さんとも随所の溶接箇所の相談も行う。我ながら一体全体に何をしているのだろうと思う時がある。とにかく面倒な性格である、細部を手を抜くと自分の魂が抜けてしまうような気がして、渡米前の時間に音を聞きに来たのだった。鐘の音を何度も聞きながら、少しづつ安心していく自分がいた。盛岡の商店街で長崎ちゃんぽん屋の看板が飛び込んでくる。何度も通りがかっていてなんで長崎ちゃんぽんがあるんだろうと思っていた店である、それも本格的な香りがするのできっと長崎から移り住んだ人がやっているのだろう。
今日の看板を見た時に僕が今日何故盛岡にいざなわれたのかも、そして鐘の音を聞きに来たかったのかも、なんとなくすべてが高速で落ちていくテトリスのように心の隙間を埋めてくれるのであった。