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出来上がった料理ではなくて、出来上がりの料理とは? 夏の朝食会、ライブキッチンの中で考えてみた。

世界一の朝食を作ろう、そんな僕らの取り組みも早いものですでに一年が経過した。まだ憎っきコロナは終焉とは至っていないが、この企画を総指揮する僕はすでにワクチン二回目の摂取を終えて、去年とは違う真夏日の朝を迎えている。今回も発表するや否やの瞬殺的なチケット完売。そう、みんな朝ごはんを楽しみにしているのだ。シグネチャーメニューのバラエティもかなり増えてきており、僕らの夢のオーベルジュ計画の朝食も回を重ねるごとにブラッシュアップされている。

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WAGYUMAFIAなのにほとんど和牛を使わない朝ごはん。2時間みっちりとしたセッションで、登場するのはオフメニューも数えるとなんと28品。

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今回の骨子を決めたのは木曜日に釣屋の釣社長から連絡があった太刀魚だった。富山湾での捕れたて65cmのいい体躯である。届いてから何にしようかなと考えていたところ、頭の中に香港の雑踏の音が流れ出した。香港で毎度と言って食べる料理、清蒸鮮魚にしようと考えた。骨抜きをしてから丁寧に蒸す、千切りのネギと生姜を整えてからカウンターサーブ。

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そこにピーナッツオイルをジュワ~と落としてから、特製のソースをかける。太刀魚の美味しさもさることながら、この料理は皿の上に残されたソースを白米にぶっかけるという料理だ。炊きたての無限御飯がサーブされる、この朝食会にぴったりなのである。

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もうひとつ海水ウニを八戸酒造の手配で送ってもらう。八戸のこのウニは何をしても上手い。氷で締めてから軽く塩ちょん、熱々の御飯にかけて贅沢にかき混ぜまくってもらう。塩ウニリゾットの出来上がりだ。醤油を落としても、ワサビを乗せてもそれは料理になるのだが、このミョウバン知らずの繊細なウニは会津米の甘さとほんの少しの塩だけがちょうどいい。思わずゴクリとなる、最高の即席リゾットの完成だ。

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定番の我が家でガッツリ漬けている糠漬けシリーズなども、間に挟まれつつ季節の野菜を僕が食べたい方法論でみなさんに食べていただく。開始時の器のバリエーションはほとんどなかったのだが、毎回新しい作家さんやアンティークの器が増えていき、ライブでどの器に盛ろうかと選ぶ自分も楽しい。どうしてもWAGYUMAFIAでは皿の枚数が30枚程度となるので、なかなかそこまでの数を揃えるのが難しい皿だ。セットで12枚で揃えられるこの朝食会でのみ、披露できる素敵な器たちだ。

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骨董の淡路民平焼の美しい黄色にちょこんと載っているのが、先日訪問した十勝鎌田きのこのブラウンマッシュルームである。僕には独自の食べ方があって、ゆっくりと火入れしてマッシュルームの中に溜まっていくグアニル酸の雫をお屠蘇のように飲む。何も足さずにそのエキスのみを吸うのだ。そしてマッシュルームを頬張ってもらう。

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素材の旨味を引き出して、できるだけ料理をしないというのが僕の料理に対するシンプルな考え方だ。ある意味、料理人は編集者であるべきで、ここまでのクオリティの素材を扱えるのであれば、シンプルな工程の組み合わせ程度でいい。大切のは素材の温度と塩味のバランスだ。そこさえ上手く共存できれば、記憶の海馬を辿り長く忘れない長期記憶へと変わる。

そして大切なのはライブであるということだ。出来た料理ではなくて、出来上がりの料理であるということが大切だ。今回はプライベートで参加してくれていた我らがバリスタチャンプ井崎さんに頼んで、ライブでインドの生豆をローストするパフォーマンスをした。空間が生豆を焙煎する香りで包まれていく、その瞬間に会話は止まりキッチンへとみんな集まってくる。

世界広しといえど、朝食会のコーヒーを生豆からライブローストをかけていくレストランなどない。本来、焙煎直後の豆は美味しくない、数時間後にガスが発生し始めて落ち着く1週間ぐらい後の方がフレーバーのまとまりがいい。ただ、出来た珈琲も美味しいが、出来上がりの珈琲を味わってもらいたい。そんな経験は一生に一度だけかも知れないから。

あらすじは大体決まっていて、登場人物も明確になってきたが、舞台の上ではアドリブだ。これがこの朝食会に最高のライブ感を与えてくれている。1st Sessionと2ndセッションではガラリと提供の仕方を変えたりもしている。朝食会チームの動きも一年経つととてもいい連携感がでてきている。その文字通り、阿吽の呼吸感もライブのボルテージをキッチン内からあげていく。

僕にとってのもう一つの楽しみは訪れた地方で見つけた郷土料理の僕なりの表現方法の模索である。八戸のせんべえ汁を、最終表現するにあたって汁の中のせんべえではなくて、せんべえが主役になっている「せんべえ>汁」を考えてみたのだった。移動することで生まれる発見、そしてこのDISTRICTの朝食会にて再構築する時間をいただける有り難み。早く海外の人にも食べていただきたいなとそう思うとまた次回へのモチベーションが出てくる。次回はまだ未定だが、8月の終わりか9月の頭ぐらいに開催できたらなと思う。

今回もご参加いただいた方々、朝早くからどうもありがとうございました!

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