おにぎりプロジェクトを通して結ぶ人の心
子供の頃、英国を愛していた親父の影響もあり、僕はボーイスカウトとなった。1907年イギリスで生まれたこの運動は、日本でも100年以上の歴史がある。ここで色々なことを習うのだが、僕が一番好きだったのはキャンプでの料理だった。
薪を拾ってきて、組んで火を炊き、そして飯盒(はんごう)炊飯する。熱効率を考えて、なぜ飯盒が湾曲した形であるのかも、乾いた竹を切って小さな穴をあけて鞴(ふいご)を作ったり、火の炊き方などもここで経験したのだった。一人ぐらしをしても僕は飯盒を持ち歩いた、逆さにしたときに叩くことでベコベコしていた。
電気炊飯器の普及により、いつしか日本では米はどんな鍋で炊けるということを忘れてしまったようだ。米を洗って、浸水することもしない人も多いと聞く。ましてや土鍋で炊くなんていうことをする人もほとんどいなくなった。しかしボーイスカウトの時に覚えたあのマニュアル方式で直火で炊く米の旨さ、幼少の記憶はなんとも拭えない厄介なもので未だに我が家には電気炊飯器というものがない。そう時間がなくても、自分で鍋で炊く。
昨年末の最後のミーティングはお世話になっているNARISAWAの成澤由浩シェフだった。一年の最後は決まって北大塚のおにぎり屋さんの名店「ぼんご」に買い出しにいくという。大掃除後のスタッフの賄いなのだ。実はアメリカの大学を留学して戻ってきた僕は北大塚の「ぼんご」の目の前に住んでいた。以来、20数年間「ぼんご」に通っている。
おにぎりは不思議な食べ物だ。なかなか自分でおにぎりを作るということはなく、多くの場合おにぎりは誰かが作ってくれたおにぎりを頂く。そう人のために作る料理の代表格なような気がしてならない。そんなおにぎりの歴史を紐解いてみると、弥生時代まで遡る。発見された最古のおにぎりは石川県中能登町で見つかったチマキ炭化米塊だ。奇しくも発見された日は僕の誕生日でもある6月18日だったようだ。
成澤シェフとこのおにぎりの話をしていたところ、酒蔵をまわってその土地土地の米と塩、そして食材を作っておにぎりを作って地元の方に振る舞うという炊き出しのアイディアを二人で思いついたのだった。そして医療従事者の方々にも届けようと。
ウィークリーで行っているロンドンチームとのミーティングでそんなアイディアをシェアしたら、ぜひヨーロッパでも同じ動きをしたいとの連絡があった。ロックダウンで元気を失っているシェフも、おにぎりで結んでいこうということに。そして大切な方々、お世話になっている方々、感謝する方々にオリジナルなおにぎりを差し上げて頂くことになった。
最古の日本料理である「おにぎり」が世界を結ぶ日が近づいてきた。酒蔵は富山県は岩瀬の「満寿泉」の桝田酒造店と福島県会津若松の宮泉銘醸が協力の名乗りをあげて頂いた。成澤シェフチームと僕らチームで組成したおにぎり隊= #onigirisquad が、地元のシェフと一緒に地元の米、仕込み水、そしてご当地食材でおにぎりを作りたいと思う。炊き出しをみんなで頂いた後に、地元の医療従事者の方々へお届けする予定だ。
今日は早朝より羽釜の炊きあがりテストと、そして地元の米の選定、仕込み水との相性をチェックした。凛とした艷やかな銀シャリをシンプルに塩握りにする。握ったばかりのおにぎりをみんなに渡して頬張る。あのときのボーイスカウトで初めて飯盒で炊いた米の喜びと変わらぬ笑顔がキッチンに溢れた。
ご家庭でもぜひこの#onigiriforloveプロジェクトに参加いただけたら幸いだ。僕らのように鍋で炊きたい方は、以下の要領で炊くと早く炊きあがるのでオススメだ。これはNARISAWAでの賄いで土鍋で炊く手順だ。
お米を洗い、最低30分程度浸水させる。お米からお水を切り、乾いた米の重量と同量の水の沸騰したお湯を入れてから中火〜強火で吹きこぼれない程度にして10分。火を消してから好みの時間で蒸らしてもらってから粗熱を取った炊きたての米で握ってもらえればと思う。僕ら#onigirisquadでは1個100gのおにぎりを作る予定で、塩は0.3-5gほどを付けている。塩は細粒をオススメする。
世界で一番シンプルな料理、おにぎり。こんな時代からこそ、心が温まる活動になればおにぎり隊としても幸せだ。