長崎ちゃんぽんを再定義する話
長崎ちゃんぽんは不評である。いや、僕は好きである。遠い昔に妹がリンガーハットでバイトしていた時代から、家族で通うようになってから長崎ちゃんぽんはいつしか僕らの定番レパートリーの中に入った。親父はタンメンも好きだった、そうこれも不評である。もちろん僕は大好きで、浜松町にある集来には時折あの熱々のタンメンが食べたくて車を走らせている。不評は外国人にである、そう彼らにとって長崎ちゃんぽんは全くゼロの存在だ。色々な外国人の友達を連れて行った、タンメンもだ、全く受けなかった。何が受けないのかを僕なりに分析していった、結論は輪郭がぼやけている料理だからだろう。僕がMASHI NO MASHIを長崎に作る!と決めたときから、であれば長崎ちゃんぽんの再定義を自分なりにしたいと思った。
いつも通り長崎の長崎ちゃんぽんを回り続ける作業を取る、そして東京でも地方でも長崎ちゃんぽんとタンメンの双方をまわっていく。外国人が感じるぼやけた感じを自分なりに表現することから始まる。このプロジェクトをすすめる上で、僕は同い年の中村栄利さんと一緒に考えたいなと思った。彼と一緒に厨房に経って、フォアグラのつけ麺を食べさせてもらったときにそう思った。なんとなく相談すると、
「あれって日清のシーフードラーメンですよね。」
と彼は伝えた。白湯の豚骨に魚介のエキスが入る。あ、と僕は思った僕は日清のカップヌードルで一番好きなのはシーフードだからだ。バーニーズ・ニューヨークでバイトしていたときも毎日弁当とシーフードヌードルのBIGを食べていた。何故かあの味が僕にとってはたまらなく食欲をそそる味だったのだ。その一言を聞いて、ぜひ一緒にちゃんぽんを開発してみたいと思った。色々なシェフと料理を作ったことがあるが、中村さんと僕の今回のレシピ開発は対話型にするようにした。とにかく歴史を紐解いて、そしてルーツを追いかけて、その中で僕らが表現するちゃんぽんを見つけていくというそういう作業になる。
僕がまずコントラストコントロールの軸足に決めたのは、麺であった。製麺のスペシャリストにお願いして色々な麺を開発してもらった。最後に残ったのは3つである。最後の最後で僕はその麺を選ぶことにした。それは自分の中で外国人として考えたなりの答えだった。僕と中村さんはボンゴレビアンコをテーマにした、基軸としての乳化されたソースを纏ったボンゴレをベースにそこから丁寧にスープで伸ばしていくそういう作業だった。ここまでにスタッフにもお題をふり、いくつかのバージョン、そして展開からの攻め方をしていったが、最後の形へと仕上げていくのであった。おそらく僕と中村さんは外国人が味わえるテイストというのを理解しているタイプの人間である。あとは実は一番重要なのが、オペレーションである。一度の6杯の注文がきても、しっかりサーブできるためにはどうするか?そしてコントラストを失わないために、オペレーション優先でクオリティを失わないことを選ぶことにした。また外国人のために20分かけて食べても感動が変わらない作品に仕上げることを心がけた。
ステージは3つある、香りを感じて、そこから麺の弾力と纏わった旨味を味わってもらう。そこからスープと野菜である。シソと絡めながら食べると、ボンゴレビアンコやペペロンチーノのようなアクセントを感じていく。WAGYUJIROのニンニクベースではない生姜ベースのペーストを伸ばしていくと、エレガントな装いになる。僕はそのあたりで白胡椒でシャープにしながら、尾崎牛のバラ肉を噛み締めていくのだ。気づいた人はほとんどいなかったが、今回僕らはすべての練り物を外した。あれがないとちゃんぽんではない気がするのも確か、ただ練り物の存在がすべてを破壊している気もしたからだ。そのかわりに近県熊本のあさりと地元の海老を贅沢に使うことでブーストをかけることにしたのだ。合わせるのは僕らの秘伝の和牛骨スープである、一緒に食べた妻が全く牛骨感を感じさせないというのは、ある意味僕らが作り上げた一杯がちゃんぽんになったということだろう。このあたりでカボスを落としていく、一気にスープが乳化しまとまりがでてくる。最後はロブスターオイルを2回しすることで、この一連の長崎ちゃんぽんの旅が終わる。
いつものようにまだまだプロトである。ただOUT OF FOCUSだったクラシックなフィルムカメラで捉えたような長崎ちゃんぽんが、バキバキのiPhone16 proで撮影した写真のように仕上がったことは間違いない。今日はアジアから3カ国、ヨーロッパから2カ国の方々に食べてもらった。殻付きのアサリを、こんなに美味しいボンゴレを食べたことはないと笑顔で食べていた。彼らが食べた麺がラーメンから、長崎ちゃんぽんと認識されるまでにあと10年はかかるだろうなと彼らとの対話の中で思ったのだが、それでも彼らがこの一杯に出会えたということはまた新たな麺の歴史のスタートになるとそう感じている。
次はいよいよ中村さんとのセッションである、実はまだこのプロトの最終形を彼は食べていない。ここがこのコラボの面白いところなのだが、彼と僕が厨房で食べることによってまた世界が融合されて、次の骨格が形成されていくものだと思う。そして何よりも一番楽しみなのが、地元の長崎の方が僕らの長崎ちゃんぽんを食べて、どう思うのか?そのあたりがこの旅のまた次のハイライトになるのだろう。
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