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想像力こそ、おもてなしの第一歩

想像力というのはとても大切な能力である。想像なくして、次の一手は打ってはいけない。そんなことを今日の戦場のようなキッチンで感じる。想像力が豊かなプレーヤーは前の一手が分かる。その差がシェフとしての力量となってくる、逆にわからない人はいつまでも目先の単純作業をずっとこなしていくことになる。この想像力の欠如というのは、おもてなしの欠如にも繋がる。僕は基本的にベジタリアンだろうが、グルテンフリーだろうが、どんなゲストに対しても全力で向かうことにしている。だからグルテンフリーだからメニューが欠品してもいいという考えになっていない。その人に対して何を出せるのか、しっかり考えて最高の美味しさを提供するというのが僕らの役目だ。一人のスタッフが「グルテンフリーなので1つ少なくていいです」と伝えてきた、「え?でグルテンフリーの人は何を食べるの?」と聞くと返答に戸惑う。これが想像力の欠如である、グルテンフリーの人がいたら同時に米粉ベースでのメニューデザインが出来ればグループの満足度は変わる。

ナパのイベントでもそうだった、僕らのイベントに5名のベジタリアン。そして当日に更にマッシュルーム、オニオンNGというトリプルパンチが加わる。僕はそこからが勝負だと思っている、僕らの想像力は行動力となり、そしておもてなしへと変わる。最後の評価は「コースも素晴らしかったけど、あの急遽お願いしたベジタリアンメニュー。今まで食べたベジタリアンメニューの中で一番だったよ」とのお褒めの言葉が加わる。主賓も大切なゲストだったのだろう、実に鼻高々な気分になってくれたようで、逆に僕らの方がとてもあたたかい気分になる。想像力というのは、実はおもてなしに繋がっているという一例だ。

僕のセッションはDJのフロアを盛り上げていくのと少し似ている。だからいくつかの微調整が入る。今回も最後の一品でのサーブタイミングを微妙にコントロールする。数秒でも早く出したいから、鍋の位置を替える。その際に器が遠くなるのを想像できていないスタッフは、すぐに自分の作業にとりかかってしまう。ここで器がさっとセンターアイランドに移動して僕がサーブする最短距離が取れれば・・・。それこそがおもてなしであり、気配りである。仕事というのは難しい、自らの場でこなすだけの仕事、そしてチームを潤滑にしていく仕事、そこにゲストのリズムを気持ちよくあげていく仕事。音の調整も入っているし、そしていきなりのカスタマイズフードのリクエストと。普通のレストランよりも想像しなくてはいけない項目が多い。360度見えて、初めてWAGYUMAFIAの体験を演出できたといえるであろう。

だから僕は想像力が欠如しているときは、細かく注意する。人それぞれである、すぐに分かる人間もいれば、これが一生わからずに生きていく人もいる。ただし僕らは後者の生き方を取っていない、常に想像していく仕事だ。想像なき人生に、未来はないと思っている。ゲストの笑顔で最高の時間となっても、やるべきチューニングは数多くあるなぁっと帰路にて考えるのである。

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