東京をぶらっと旅してみる。
朝からジムでワークアウトしながら、どこをどう攻めるかをディスカッションするのは妄想喫茶ブラザーこと井崎英典さんである。久しぶりに彼がみているコーヒーの最新の風景と原風景みたいなものを見に行きたくなった。コーヒーは彼、食は僕、そんないつもの役回りだ。なんとなくリサーチしにいく、それぐらいしか決まっていないいつものNO PLANスタイルだ。このアドリブが合うか合わないかで一緒に旅が出来るかが分かるのだ。
訪れたのはKOFFEE MAMEYA KAKERU、表参道のMAMEYAさんもコロナで空いているうちに訪れたら良かったのにもはや長蛇の列だ。妄想喫茶の時でも時折テイスティングのための豆を井崎さんが調達したこともあったっけ。虎ノ門ヒルズは閉めてしまったものの、その彼らの最新作が清澄白河に出来たこの箱だ。日本各地のロースターで焼いてもらったトップロットの豆をアラカルトで頂くことも出来るし、コースで頂くことも可能だ。何よりもセッティングが見事だ、倉庫をリノベーションしてシンプルに美しくデザインされている空間。段差でレベル差を上手く演出している。店内はほとんど海外の人だ、みんなコーヒーを愛でてそうな顔をしてとてもいい顔をしている。店は住宅地の中にぽっこりある。思わず、長いことこの地に住んでいてこんなコーヒー屋さんが出来たら幸せな気持ちになる人も多いんだろうなぁっとそんな気分になる。
そこからググって調べたピッツェリアへ。到着したら今日は満席、オンラインからの予約のみと書いてある。シンプルな内装に工業デザインのようなピザ窯が存在感を示している。また次回かなと思っていたら、何やら店員に向かって叫んでいる井崎さん。どうやら一緒に働いている映像関係のスタッフがなぜかバイトしているという。交渉するとテーブルを分けてもらうことができた、こういうときは必ず幸運が待っている。ピザ窯を興味深く見ていると店主と話すことが出来た。聞けば機械工学を学んでいて、元々はロケットエンジニアを目指していたという。お父さんが自動車の整備工場を営んでいてそこを手伝っていたのだろう。店内のほぼすべてを時前で作っている。ガスバーナー2連のコンビと薪仕様になっている釜は見る人が見ればすぐにそのポイントが分かる性能だ。写真はNGと書いてある、その理由について尋ねると、ピッツァを主役にしたいのだという、そこには人物は要らないらしい。僕らとは全く違うブランディングに、高崎の小麦粉の優しいピッツァが胃に溶け込んでいく。
そこから数軒回ってから、大雨の中たどり着いたのはコーヒーカウンターニシヤさんだ。渋谷のCOFFEE HOUSE NISHIYAを閉めた後に立ち上げた西谷恭兵さんのバンコだ。「浜田さん、東京のバンコを見に行きましょう。それなら西谷さんのところしかありません。」そういえば、今朝ジムで懸垂をした直後に息を少し切らしながら彼はそう言ったのだった。渋谷は一度訪れたことがある、その小気味いい動きは健在で、70cmちょっとの小さな客席を確保したバンコで一人颯爽と舞う西谷さんは嬉しそうだった。食べ歩き続きで少し甘いものが欲していた僕はピッチェリンをオーダーする。トリノで生まれたチョコレートドリンクだ。小さなグラスを意味するそのドリンクを指差すと「いってみましょう」と、まるでイタリア語が日本語になったかのような軽やかなレシーブをしてくれる。大雨が幸いした、普段は観光客で溢れかえっている。「案外雨がこんなに降ってラッキー」と、店主と話す井崎さんも嬉しそうだ。正直燃え尽き症候群じゃないけど、しばらくはやる気が起きなかったんです。と、渋谷で行列が絶えない店を切り盛りしていた西谷さんはそういう。来年からエンジンを吹かしていくらしい、そろそろ稼がないとね、とまた嫌味のない笑いをして、井崎さんの大笑いが幕間の休憩のように会話を包み込んでいく。
インプットしかない、何気ない一日というのはやはりノープランに限るのだ。
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