おにぎりプロジェクト第八弾:北海道帯広上川大雪酒造編
10年ぶりだっただろうか、長いブレイクの後の再訪となった帯広訪問。それは凍った湖に穴を掘って飛び込みたいという邪な動機だった。真っ白に凍った湖にただただ穴を掘って飛び込むというそれだけのことに大の大人がこぞって全国から集まってくる。それが今年の2月こと。帯広が存在する十勝という大地は、そんな魅力がある。
そこから既に4度目の帯広となる。今年は帯広づいている僕にとっても特にスペシャルな日、それは今日は第8回おにぎりプロジェクトだからだ。コロナだからこそ元気を届けたいと、成澤さんと始めたこのプロジェクト。毎月コツコツと続けてきた今月でいよいよ第8回目なのだ。それも今年僕にとって一番ホットな帯広と決まれば、鼓動も高鳴るわけだ。前回訪問させていただいた上川大雪酒造さんに今回はお世話になることに。北海道で20数年ぶりに生まれた新しい日本酒蔵である。休眠していた三重の酒造会社の免許を上川町に移設する形で、オープンするという非常に珍しい形で生まれた酒造メーカーだ。減少していく日本酒蔵市場においてもっとも新しい酒造メーカーの誕生といえよう。なにより場所がユニーク、20年4月に設立した新しい蔵であり、今回のおにぎり舞台となる「碧雲蔵」は、国立帯広畜産大学の構内に存在する。初めての訪問では、蔵の中も非常にコンパクトで、こういうコンパクトな蔵のスタイルが世界で日本酒を作り出す参考になるのだろうと思ったものだ。
北海道の人が本当に旨い食材が集まる場所という、それが帯広
道中そんなことを帯広の友人の林さんが言った。成澤さんが「それはなぜですか?」と聞く。そうすると林さんは、「温泉もサウナもあるのはもちろん、とにかく食の宝庫。だから食材にうるさい道民もこぞって集まってくるんでしょうね。」自らの故郷をそう自慢する。事実、今回のおにぎりの具材選びはオプションが多すぎて難航する。シンプルに「美味しい」が多すぎるのだ。氷の湖に飛び込むあの日から、僕は彼からサウナ飯の開発を依頼される。個人的にも北海道一の仲良しであるサウナ界のマイケル・ジョーダンこと松尾大こと通称「ととのえ親方」が親方襲名する前から、サウナについての薫陶を直々に受けた僕にとって、非常に光栄なご指名だった。それ以来、十勝の生産者という生産者を片っ端から訪問している。僕は原風景が見えないと料理がデザイン出来ないタイプだ、それはストーリーを食べてもらうということを料理の主軸においているのと、食というのはこのおにぎりプロジェクトもそうだが、人が作るものという根本的な概念がある。
今回は僕がこの半年で出会った生産者のことを紡いで思い浮かべながら食材をトスしていく。それを成澤さんが素晴らしいクリエイティブでイメージするという初めてのスタイルをとった。おにぎりプロジェクトスタート時は海は成澤さん、山は僕というような形で2つ作り出すおにぎりのどちらかを分けて製作するということが多かったが、8回も重ねてくると少しづつ阿吽の呼吸というものが生まれてくる。そこに新しい食材探しという第三の要素も加わって、まるでトリオでの演奏のようなインプロビゼーションな時間である。
当日の空は高かった。少しづつ肌寒くなってきた少し早い秋の装いに、「でも、来月は沖縄は石垣ですからねぇ、また短パンですよー!」と明るく笑う成澤さん。集まったボランティア、生産者の方々は30名を越えた。参加してくれた友人は人生で初めておにぎりを握ったという。そんなみんなの想いが詰まった十勝の大地の味を、敬老の日にちなんで老人介護ホームもグループで運営されている医療法人に届けることに。ご協力いただけた十勝の皆さん、ありがとうございましたー。