十勝で出会ったハンガリーのマンガリッツァ豚
北海道ホテルの林克彦社長の手引きで帯広で生産農家をまわっている。そんな中で穀類卸を営む丸勝の吉村透さんから面白い話を聞いた。小豆の輸入はカナダ、中国が大きい。そのカナダがとうもろこしなどの餌料系へと生産作物をシフトしている。これは中国が肉食化していることに大きく起因している。中国の小豆農家も餌料系作物への変更をしている。中国からの小豆は現地で加糖調整品として日本に輸入されるわけだが、その輸入量が減っている。打撃を受けているのは大手菓子パンメーカーだという。そして、国産の生産農家、十勝の小豆農家には追い風なのだという。
そんな話を聞きながら、国内で唯一の純血のマンガリッツァの生産牧場を見学させていただいた。帯広に入る前からこの話は聞いていた。2016年に生体、つまり生きた状態で輸入された純血のマンガリッツァがいまや300頭になる。なんで穀類卸が一次産業をしているのか、不思議だったがこういうことだった。前出の林社長と丸勝の専務梶原一生さんが大使館めぐりをしていたらしい。その中で出会ったハンガリー大使館経由で、ハンガリーに飛び、そこでマンガリッツァ豚に出会い、輸入することを決定してゼロからここまで伸ばしてきたという。
生産牧場をみさせていただいた。初めて国産のとうもろこしで育てている場所をみた。ほとんどの餌料が道内で生産されている話も素晴らしかったが、素人がゼロからすべてを立ち上げて、大学などの協力も得ながらここまで伸ばしているという事実が素晴らしかった。牧場長の藤田隆宏さんはとても生き生きしていた。今ではマンガリッツァ豚のお父さん的な立場の彼だが、前職は医療機器・介護用品販売の営業職だった。藤田さんは自分たちの取り組みを自信を持ってアピールしたい、そんな熱気に溢れていた。あたりまえだが誰よりもマンガリッツァ豚を愛していた。養豚場は世界中で色々とまわったが、最強の素人が揃い、そして親会社が穀類総合卸ということでも、かなり稀有なコンビネーションだ。最初はなんで十勝でマンガリッツァ育てているんだろうぐらいにしか思っていなかったが、やはり百聞は一見に如かずだ。
そういえば、8年ほど前に僕はブダペストにいた。毎日スメタナを聞きながら、ドナウ河を走って戻ってきたらチキンパプリカーシュを食べていた。マンガリッツァも現地で知った。一時期ハンガリーでは10万を超えたマンガリッツァの生産頭数も今回アフリカコレラの影響をもろに受けて、5万頭まで減ったという。まだ300頭だが、十勝ではしっかりとその生命が増えていることに感動する。帯広名物の豚丼、しかしながら地元の豚が存在しなかった。このハンガリーからの至宝が、この大地でいつの日か豚丼といえばマンガリッツァでという日も近い。
冒頭のエピソードではないが、世界の食トレンドが変わることによって、国内での供給バランスも一気に崩れる時代だ。国内の循環型エコシステムをしっかりしていくことで、国内生産で育った安心かつ美味な肉が食べられるはずだ。世界中の生産現場の裏側をみてきた僕だから思う、大切なこと。日本が美食大国として今後もアピールしていくには、とても重要な要件はトップ生産者をどうやって伸ばしていくかということだと思う。そして、近い将来、「自分たちが食べているものが、どういうものなのか?」そのプロセスのすべてがガラス張りになっていることが重要になるはずだ。安い肉には必ずカラクリがあることを気づいた方がいい。今回の帯広では3つの生産現場をまわることが出来たが、どれも日本の一次産業の未来を感じるような明るい光をもらえて、提供サイドにいる僕らも頑張っていきたいと思う。
そして今回貴重な時間をシェアしていただいた十勝の生産者の皆さん、ありがとうございました!また十勝が好きになりました。そしてアレンジ頂いた林さんこと、かっちゃんに乾杯。