スターウォーズが撮影された火星のような砂漠
南ヨルダンの砂漠のワディラムの朝だ。昨日と打って変わって風も凪ぎ、砂が収音材になっているかのように静寂だ。遠い小鳥の囀りが時折聞こえるぐらいで、あたりはまるで絵画のように佇んでいる。ここまで静かだと耳の奥で何かが聞こえてくるから不思議だ。携帯の電波は12時間前から途絶えている、もしも繋ぎたかったらあの山を越えると電波があるよと近くの山を指さされる。近くに見えても往復で2-3時間はゆうにかかるだろう。
昨夜のディナーは砂の中で焼いていく料理だった。ヨルダンの羊はとにかく美味いが、この焼き方は秀逸だった。羊は静かに火入れをする方が似合っているような気がする。皮目と脂がまたいいアクセントになって、バスマティライスに溶け込んでいく。残念あがらアルコールはない、とそこにポーランドからやってきたカップルがやってきた。今年一月にケープタウンで会ったという彼女は「南アフリカの赤ワイン良ければご一緒しない?」と差し出してくる。南アのワインはすこぶる調子がいい、そしてこのラムの脂と見事なマッチングをしてくれる。
聞けばノルウェーで養殖業を営んでいる男だった。アメリカはウォールマートに卸していて、中国、韓国も取引があるんだけど日本はないんだ。ぜひいいところを紹介してほしいと、ビジネスマンらしいトークが始まる。残念県曇り空だったのでそこまで星が見えるわけでもなかったが、最新鋭の天体望遠鏡で星を追いかける。ビーナスがどこかわかるか?そして目印にするのは北極星…この星と星の感覚の5倍の位置にあるのが…そんないつしか学校で習ったかのような時間を過ごす。ポーランドの男は「オーロラを見たことがあるか?」と聞いてくる、彼が持っているノルウェーのホテルにぜひ来てほしいと言う。そこからのオーロラが絶景らしい。
朝陽が上がるのと同時にベドウィンがラクダを運んできてくれる。かわいそうだが一歳になったばかりの娘も起こしてラクダで1時間の散歩である。昨夜出会ったポーランドと南アのカップルも参加して、昨夜の会話の続きである。19歳から始めた漁業、今年で26年目という。齢は46歳、生まれ年を聞くと1977年という。妻の読みが当たった、同い年だった。中国では巳年は巳年と仲良くなるっていうんだよとラクダ越しに伝えると、彼は笑った。息子が日本を訪ねたことがあってすっかりファンになって、僕らもいつか行きたいと思っているんだと伝えた。昨夜頼まれていた名刺を渡すと、すぐさま携帯を取り出して「あ、電波がないんだった」と笑う。おそらく近い将来、彼の仕事場に遊びにいくんだろうなっと思ったのだった。