お尻の大きな女
一応処女作。
堤中納言物語等の、短編集を意識して書いた習作です。また、始まりと終わりがキッチリしてる、明快な構成にならないようにも工夫しました。
まだまだ近代の名残はする。
て、持ってた遊戯王のカード全部パァになっちゃった。怒った青木に、けいちゃんは噛み付かれて、たまったもんじゃない。そんな青木が外資系のエリートエンジニアなんだから、もうちょっと、奴の肩持ってやるべきだったな。
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大学2年生の頃バイトしていた喫茶店の常連客に、すごい綺麗な人がいた。
当時19歳の僕より2つ上くらいの、大きな瞳に小動物みたいな輪郭に囁くような話し方が可愛らしい、店のちょっと大きめなテーブルに、iPhoneで音楽を聴く彼女は、いつもアルバム一枚分くらいの時間が経つと帰る。お会計を済ませて、食器を下げにテーブルへ向かうと、薔薇の重い匂いが漂っていて、ブレンドコーヒーを一滴残らず飲みほしてある。喫茶店のお客さんって結構コーヒーを飲み残して帰る人も多いから、店員からするとこれだけで好感が持てる、ちょろいもんだ。
とはいえ、最初のうちはあの人可愛いなあ、って、アイドル見るくらいの感覚でしかなかった。結局そんなもんで、そっから無理に恋愛感情引き出すのは、恋に恋する女子高生くらいだ。
...うーむ、あの日の出来事がなければ可愛いお客様で終わっていたのに、低気圧ってのはロクなもんじゃない。
9月の中頃。朝から雨が降り続けて、客入りも悪い日の夕方。入り口に立つ、ガラス越しに見える、大きな傘を携えて、これまたサイズの大きいコートを被せてやってきた彼女の格好は、庇護欲をくすぐらせるもので、普段よりも一際女の子らしさがあった。
ドアを押して、店のベルをか細くならし、いつもの定位置に座ろうとする彼女が、僕に、後ろ姿を見せて、コートを脱いだ先に晒したものは、長靴代わりのブーツとミニスカートとの間に挟まれる、わずかな太ももの白くて、触らなくてもだけで分かる柔らかそうな質感、スカートを球形に膨らませるヒップ、さっきまでの庇護欲はどこ吹く風、コートの下の少女の体つきは、誰よりもオトナのオンナだった。
父子家庭、男子校育ちで工学部の僕は、女とはまるっきり縁のない時を重ねてきた。恋に落ちないわけがない。
それからというもの、好かれようと必死に努力をした。わざとレジを打ち間違えて、お会計少なめにしたり、多めにコーヒーを注いだ。今にして思えば、そんなことしたって彼女は好意を待つとは思えないんだけど。しかも、会計値引きは店長の知れることとなり、大目玉を食らったんだから可哀想なやつだ。
それに、少しでも会うチャンスを増やそうと、週2日だったシフトを4日に増やした。おかげで、単位を2つ落とした。
ちょっと時間は進んで12月24日。僕は喫茶店で忙しなくコーヒーを運んでいた。その年のクリスマスは火曜日と水曜日で、本来シフトが入る曜日ではなかったんだが、何故か他のバイトの方々は都合が悪いと。そして僕に白羽の矢が立った。密かに仲間だと思っていた天然パーマのメガネくんも用事があったとのことで、まあ惨めな気分だ。
カップルが一息つきに来るから意外と忙しいし、ツイテナイナ、と口には出さずにボヤいていたら、彼女がおひとりさまでご来店するんだから、人生悉有、塞翁が馬だ。いつもより大きな瞳に口紅の赤が鮮やかな、ニットのセーターにいつもより短い紺色のミニスカートにヒールを履いて、お尻をプリプリさせて歩く彼女は、定位置が埋まっていたから、その横の席に座る。あとはいつもと変わらずに、アルバム一枚分の時間を過ごしたら帰っていった。
生まれてこのかた、一度もサンタさんを信じないくらいドライな僕も、この日ばかりはクリスマスプレゼントを貰ったよ。しかも二つも。薔薇の匂いに囲まれるテーブルを片付けていると、口紅を見つけて、急いで追いかけたら、ヒールの彼女にはすぐ追いついた。
「ありがとうございます」って、笑窪を見せて感謝してくれる莞爾が、視界いっぱいに映ったんだから、その後注文ミスをして、キッチンの店長から怒鳴られたのも全く気にならない、とにかく、良い日だった。
年をまたいで、2月の末日、いつもの席にいた彼女が、アルバムの6割程度しか時間が経ってないのに席を立った。なんてことはない、トイレに行くだけなんだが。彼女がトイレに行ったところは一度も見たことがなかったから少し驚いた。
トイレから帰ってきた彼女がお会計を済ませて、20分も経つと時計は8時を指していた。閉店の時間だ、閉店作業に入る。
閉店作業のうち、トイレ掃除は僕の役目だったから、いつものように清掃用具を持って向かうと、彼女が使用した後のトイレの汚さに、ヒッヒッっと、声を上げてしまった。詳しく書くのもはばかられるから、汚いとしか言わないが、とにかく汚いのだ。これまで募らせた恋心も消え失せた。それどころか裏切られた気持ちから、怒りがこみ上がる。
けど、怒ったってしょうがない。なんだかよく分からなくなってきて、その晩は泣いた。
こうして、人生初の恋愛は、なんとも手前勝手な失恋でサイクルを閉じてしまった。
1ヶ月半の後、バイトはやめた。失恋が原因ではなく、3年生に進学すると大学のキャンパスが変わって、今の喫茶店では色々と不便だったからだ。ケチな店長も、最後の日にはブルーマウンテンをご馳走してくれた。大して美味くもなかったんだけど。
それから1年経って、彼女を一度見かけたことがある。
その頃には恋人も出来ていた僕は、電車で待ち合わせ場所の渋谷に向かっていたんだけど、対面座席に彼女はひとり、座っていた。やはりイヤホンで音楽を聴いていた彼女は、いつにもまして、これまでで一番綺麗だった。それが昼の陽光のライティングが理由だったのかは分からない。ただ、全く惹かれなかったのは、僕が成長したってことなんだろうか。
妻が臨月で実家に帰り、久しぶりに、部屋にひとりっきりでテレビを見ている今、ふと、このことを思い出した。初恋の体験談なんて妻子が見たらいい気しなさそうだが、3日も経てばまた記憶の引き出しに仕舞われてて、もしかすると、もう一生思い出せなくなるのかもしれない。それはなんだか寂しいから、こうやってワードの文書に打ち込んでいる。
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東大の理Ⅰに行った弟が、霊とのツーショット写真を撮って寝込んだ時の顛末は今思い返しても笑える。
弟の慎也は頭はいいくせに、変なところでバ
一応解説
A4一枚(2500字制限)のエッセイの紙が見つかったという体の文学。
保存されずに、一部だけが残ってる古典文学って多いからね。それのオマージュと、完全なものを求める商業主義への批判も込めて。