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なぜビッグモーターは消滅したのに損保ジャパンは存続できているのか?
金融庁 保険会社の契約先企業のサービス利用を禁止に 法改正へ
NHKがこんなニュースを報じています。
これをそのまま受け取ると、たとえば、東京電力に火災保険を売っていたら東京電力のサービスが使えなくなるということになってしまいます。
さすがにこれがそのまま規制になることもないとは思いますが、そうすると、また膨大な細かい要件と例外が入り乱れた複雑な規制が入ってくることになるでしょう。現状でもむちゃくちゃ分厚い保険業法がまた厚くなります。
しかも、それで迷惑を被るのはまともな会社です。そもそも、損保ジャパンをはじめとした大手生損保の問題は、保険業法で規制するような性質のものなのでしょうか?
「保険金詐欺の片棒を担がない」とか「カルテルをやらない」とか「出向先でみた個人情報を勝手に横流ししない」とか、最近問題になっている事例は他の法律でも禁止されていますし、法令があろうがなかろうが「人として」やってはいけないに決まっています。
そのような最低限のルールすら守れない企業には、そもそも保険業を営ませてはいけないのだと思います。たとえば、保険金詐欺の前科がある人が保険会社の免許を申請したとしても、金融庁は絶対に免許を発行しないでしょう。それなのに、順番が逆で、保険業免許を持つ会社が保険金詐欺の片棒を担いでも免許を取り消されたりはしないのです。これでは「ムラ社会」といわざるを得ません。
いってしまえば、どの損保も商品力には大差ないから商品で勝負できずに、もたれ合いの構図ができるわけです。ということは、別に大手損保がなくなったとしても、ユーザー側はなにも困らないわけで、重大な不祥事を起こした保険会社を存続させておく理由は特にないわけです。
そのあたりは、金融システムを構築している銀行とは大きく違うところです。銀行は、各地で独自の金融システムを担っているため、ある銀行がなくなったからすぐに他の銀行が代替できるというものではないため、連鎖破綻や金融不安などの社会的な影響を抑制するために「救済」することに一定の大義名分がありますが、保険会社は金融システムとはあまり関係がないため、破綻ならまだしも、自主廃業したところで特に社会的には影響はなく、むしろ、腐った巨木が倒れることで密林に光が差し込み、新しい木々が茂っていく可能性も高いでしょう。
人として最低限のモラルさえ守れない保険会社は粛々と退場させるという監督を貫けば、細かいルールなどなくても業界は健全化するでしょう。
ビッグモーターは伊藤忠に買収され消滅しましたが、別にそれで社会どころか中古車市場にすら特段の波乱はみられません。仮に損保ジャパンが解体されたとしても、社会や業界に与える影響はそれと大差ないでしょう。
なぜ、ビッグモーターは消滅したのに、その不正の片棒を担いだ損保会社は営業を継続できているのか、そのせいで大量の細かい規制が追加され、まともな会社がコンプラコストを負わなければならないのか、保険業法の精神の原点に立ち戻って考える必要があるのではないでしょうか。保険業法が守るべきは保険契約者であって、保険会社ではありません。
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