『薄氷の殺人』感想とディアオ・イーナン監督メモ
70年代ディスコブームの一発屋ボニーMの『怪僧ラスプーチン』をバックにピカピカ光る謎靴履いてダサいボックスステップを無表情で踊る人々のシーン切り抜きを見て度肝抜かれた『鵞鳥湖の夜』(2019)のキャッチコピーに「薄氷の殺人から5年、ディアオ・イーナン監督最新作!」とあり、あれ?なんか見たことあんなこのタイトル、と思ってレンタル落ちDVDの山を漁ったら持ってたので見た。
『薄氷の殺人』(2014)。
1999年と2004年、5年の時を経て発生した一見無関係なバラバラ殺人の影には謎めいた美女ウー(グイ・ルンメイ)の存在が。一度目の事件で仲間を失った刑事のジャン(リャオ・ファン)はウーと接触しつつ独自に捜査を進めていくが次第に彼女の魅力の虜となっていき·····
典型的なフィルム・ノワールでありその成立要件としてのファム・ファタールもの。が、撮影や演出はちっとも正統的でなく、ともすれば奇を衒い過ぎて鼻につくと言われかねないほどに凝ってて、尖ってる。特に99年〜04年の5年間と春から冬への季節の変化を一気にジャンプするカット繋ぎは反則スレスレにアクロバティック。
加えて、説明的なシーンを極力削ぎ落とし、というか通常必要と思われる長さよりあえて短く切ることで「意味の深爪」状態が生まれているため、まーその淡白さ酷薄さがCOOLっちゃCOOLなのだが、初見時にはカット同士の繋がりやシーンの意味が取りづらく、二回見てようやく腑に落ちる箇所が多々あった。
とはいえ、こうした点は本作の瑕疵とは言えず(あらかじめ観客のターゲット層をシネフィルに絞っててムカつく、ぐらいのケチはつくかもしれないが)、ラストシーンを忘れがたいものとしている「白昼の○○」(ちなみに原題は『白日焔火』)に代表されるマジックリアリズム的な映像表現とガッチリ組み合い、まるで感覚の外側から襲撃を受けるような未知の世界観が形作られようとしている。
とはいえ、今後輝かしい未来に向かって伸びていくはずのディアオ・イーナンのフィルモグラフィーからすれば、本作は過渡期的な位置付けの作品になるに違いない。
中国が生んだ天才の全面開花に期待しつつ、次作の観賞へと進みたい。
(なお、『薄氷〜』『鵞鳥湖〜』ともに2025年1月現在配信なし。こーゆー状況、イクナイ!🙅🏻)