++ そう見えた音楽 ~Vol.5~++
時に音楽を聴くとその世界観とまったく関係ない、
不思議な風景が目の前に現れる。
わずか数分で巡り合えては消えてゆくストーリー。
ちなみにオチなどありません。
ゆっる~い気持ちでお読みいただけると私だけほっとします。
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【そう見えた『Saturday In The Park / Chicago』の場合】
実にあっという間の夏休みだった。
出張で向かうことになったラスベガス。
車のイベントを視察するためだったが、あまりな観光地エリアへの出張後、直行で日本へ戻るのに嫌気がさしそうだった僕は、妻のノリコに声を掛けた。
「夏休みとらないか? 行きは多分別々になると思うけど、後で合流するってことで。それでいいなら君もアメリカへ行かないか?」
仕事場へ妻を誘うのは気が引けた。
だから、自分の出張中、アメリカに居る君の友達の家へステイさせてもらってはどうか?僕も後から便乗させてもらえるならそっちへ向かうし、と誘ってみたのだ。
妻はちょっと驚いてはいたが、数時間後「それに乗った」と返事をもらった。
「こんなチャンス、この先ないかもしれないしね」
僕から遅れること二日。
妻は後から一人でサンフランシスコ空港へと降り立った。
そこには旧友のレイコさんが車で迎えにきてくれていた。
僕は順調にラスベガスでのイベント視察をこなし、終了後すぐ飛行機に乗り、サンフランシスコ近郊の小さな町へと向かった。
「コンピューター関連の人々が多く住んでてね。日中はあったかいし、案外のんびりしてて住みやすい環境だと思うの」
久しぶりに会ったレイコさんだったが相変わらずの美人で正直安心した。
レイコさんの旦那さんはスリランカ人。ここで出会いここに移住し、はや12年が過ぎたそうだ。
ノリコは解放感溢れる友人夫婦の生活にすっかり魅了されたのか、日頃そんなに飲まない白ワインを昼間からぐいぐいと口にし、レイコさんの聖域であるキッチンで夕飯の仕込みを手伝いながら、朗らかな声でコロコロと何度も笑った。
僕はカタコトの英語とジェスチャーで旦那さんライリーの仕事について語り合った。
少し裏庭で涼んでは、プラムを盗みにくるリスの様子に癒されながら、僕も瓶ビールをぐいぐいとやっていた。
ノリコはどこへ旅行してもあちこち観光巡りをしない。
「ノリー、いいの?お土産とか、どこか観光地巡りとかしなくて」
「いいの。お土産は空港で充分。私は観光地を巡り歩くことが旅のすべてとは思わないの。その土地にプチ生活でもさせてもらう気分で数日佇む。そこでの空気をいっぱい吸ってまどろんで。このアメリカのどこにそんな魅力があるのか、レイコがなぜ移住を決めたのか、自分の心で確かめる時間を持ちたいの」
一週間ほどの滞在中ノリコが向かった場所は、高級百貨店でもなく、免税店でもなく、サマーフェスでもゴルフ場でもワイン農場でもなかった。家で料理する食材を買いに近所の市場やマーケットへ連日通っただけだ。
それでも。
僕にとってもそういう日々の暮らしにこそ贅沢な幸福が潜むものじゃないかと、ここへ来て強く感じていた。なにをするわけでもないのに顔が緩んで裏庭のロッキングチェアに腰を降ろし、またプラム泥棒のリスに出くわす…。そんなここ数日がとても愛おしくなっていた。
そして7月4日。
テレビでもラジオでも、レイコさんの家の前を通る車からも。
あの曲があちこちから流れていた、そんな帰国前日。
「せっかくだからこっちのファミレス、なんてのも体験してみる?ふふふ」
日本にだってあるよ、という突っ込みはわかなかった。むしろこっちのファミレスはどれだけ映画やテレビドラマで観たものと同じ様子なのか、その辺り探ってみたくなった。
僕たち夫婦とレイコさん達夫婦と息子シャノン5歳の合計5人でファミレスへ。
そこでもあの曲がラジオから数十分おきに何度もかかる。
「アメリカへ来たらやっぱり一度は体験してみたら?Tボーンステーキと不思議な色した凄く甘いケーキ」
それは想像を絶するサイズのTボーンステーキと、日本ではみかけたことのない青色と紫色に緑色が加わるという、不思議なケーキ1/4がテーブルに到着。
甘い。酷く甘い。
でかい。酷くでかい。
「旅の土産話がまたひとつできたわね」
僕の降参的笑顔にレイコさんがクスクスと品良く笑う。シャノンも口角を上げてニヤリと笑う。それじゃあ大きくなれないぞとライリーも笑う。そんな状況にノリコもつい笑ってしまう。
轟音鳴り響かせ飛行機が上空疾走していくのをガラス越しに見た。昨日テレビで観たカーレース。国歌斉唱時に勇ましく上空駆け抜けた複数の軍用機を思い出す。
なにげない平和が今日ここにもちゃんとやってきたことを、あの曲が何度も何度も叫ぶように流れていた。
明日、日本へ帰ります。
おわり
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・シカゴのペッター軍団さんと昔遭う機会が。超仕事が速いっす
・一部本当の話も混ざってます
・一気に書ききるタイプです、誤字脱字あったらごめんなさい
・この作品そのものの世界観を否定するものではありません
・この作品がただただ大好きな方にはごめんなさいです
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