聴かせて!「マイシアター高松」のわがこと
2023年最初の「聴かせて!みんなのわがこと」。今回は高松市上之町を拠点に活動されている「マイシアター高松」さんにお邪魔してきました。
実は長年活動されている団体さんなのですが、みなさんご存じでしたか?地道に意義ある活動をされているんです。
Vol.7
マイシアター高松
大人も子どもも「みる・あそぶ・つどう」
-活動内容について教えてください
植原さん:親子を対象にプロの人形劇・舞台の鑑賞会や、キャンプ・お泊まり会(パジャマパーティ)など体験活動の開催、同世代の子どもたちが集まる居場所づくりをしています。
また、子育て支援事業の委託を受けて0~3歳児対象の子育てひろばも運営しています。
月額会費制の会員制にしていまして、会員になると年間5~6本の作品を無料で見ることができます。
キャンプやパジャマパーティでは保護者のいないところで自分たちで考えて行動し、仲間と生きる力を育みます。
また、小学生や中学生など年代別に、月に1回とか週に1回、スペースを開放していて、みんなで工作やボードゲームをしたりごはんを食べたりしながら交流する機会を設けています。
会員数は高松市を中心に、だいたい300名くらいですね。
小さいお子さんもいますし、お子さんが小さい頃に会員になって、そのまま子育てが終わっても会員を続けている年配の方もいらっしゃいます。
―活動を始めてからどのくらいになるのでしょうか
植原さん:前身の「香川子ども劇場」がスタートしたのが1972年なので、昨年で50年になりました。
当時は生の演劇に触れる機会を子どもたちに提供しようと、全国で一斉に「おやこ劇場」「子ども劇場」が市民活動として設立されたんだそうです。
今の名前になったのが1996年、NPO法人になったのが2002年ですね。
-息の長い活動なんですね。活動をするうえで大切にされていることはありますか
植原さん:私たちの活動のキーワードは「みる・あそぶ・つどう」です。
演劇作品を鑑賞することで子どもたちの感性を育むことはもちろん大事にしていますし、いろいろな体験活動をすることも、仲間が集まる居場所づくりも大事に考えています。
自分で考える力や行動する力を養うとともに、お互いを認め合い自己肯定感を高めることにもつながるからです。
それを子どもたちの成長に沿って、長いスパンでの関わりを継続することで、子どもたちだけでなく大人も豊かに育ち合えることを目指しています。
なので子育て支援の運営においても、0歳児から人形劇を見てもらう"アートスタート"を行ったり、お誕生会や夕涼み会、畑での野菜収穫などのイベントを開催したりして、さまざまな体験の場を提供しています。
また、親御さんもお子さんと一緒に舞台や体験活動を楽しんでもらっていますね。
-活動のための資金やスタッフはどうされているのでしょうか
植原さん:会員からの会費収入がメインです。これで劇団をお呼びしたり会場を借りたり、事務局スタッフの人件費もまかなっています。
タイミングが合えば助成金や補助金も申請しています。
スタッフは、会員さんのなかから声を掛けて、事務局や子育てひろばを手伝ってもらっています。事務局は私を含めて5名、子育てひろばは10名います。
スタッフはもともと会員さんなので団体の理念も共有しているし、"昔取った杵柄"ではないですがそれぞれスキルのある人も多くて、とてもありがたいです。
それでも人は足りないので、イベントでは一般の会員さんにもお願いしてお手伝いしてもらったりもしています。
スタッフは、自分の子どもが参加する体験活動は手伝えないんです。子どもには親から離れたところでのびのびしてほしいから。
だから他のスタッフからわが子の様子を聞いたりするんですが、それがまた楽しいんですね。
体験が人間の土台をつくる
-植原さんが活動に関わるようになったきっかけはなんでしょうか
植原さん:子どもの頃に小説を読んだりはしましたが、演劇とかには正直そこまで興味は無かったんです。
二人目の子どもがお腹にいた時に、こんな場所があるよと児童館の職員に教えてもらったんですが、じゃあ生まれてから行ってみます、って感じで(笑)
ところが実際に行ってみると、まだ1歳くらいだった子どもが人形劇を観て泣かないどころか、登場人物をずっと目で追いかけたり、2~3歳になると音楽に合わせて身体を揺らしたり。
こんな反応するんだ!ってほんとにビックリしたんですね。
体験活動の時は親から離れてスタッフが付き添ってくれるんですが、スタッフさんから「○○ちゃん、こんなことしてたよ」ってあとから聞いて「うちでやってるの見たことない!」ってまたビックリして。
子どもたちのいろんな可能性が引き出されていくのを目の当たりにして、体験の大切さに気付いたのがきっかけですね。
―小さい子でも演劇をしっかり楽しんでいるんですね
植原さん:劇が始まると子どもたちは、ほんとうに食い入るような感じで見ています。小さいときから見ていて生の劇の面白さを知っているから、受け身ではなくて積極的に楽しんでるんですね。
この前ピアニカが出てくる演劇があったんですが「ピアニカってこんな音が出るんだ?!」って大人も子どもも衝撃を受けていて。
そしたらこんどは、自分でもマネをしてピアニカを演奏してみたり、「練習すればいつかあんな音が出せるようになるかも」って想像してみたり。
生の舞台だからこそ、そうやって自己肯定感を高め、可能性を広げるきっかけにもなっていくんだと思います。
たぶん、自分で観たい作品を選べるとしたら、ピアニカってなかなか選ばれないのかもしれない。
ここでは自分が見る作品を選べないから、好きじゃないとしても見ることになるんですけど、でもプロが目の前で演じることで、そこには予想もしなかった新しい発見があって、きっと何か持って帰るものがあると思うんです。
人形劇のときも、口がない人形なのに「あの人形泣いてたね」「でもあのとき笑ってたね」って感じ取れるんですよ。
―プロの技ってすごいですね…
劇のほかにもキャンプやパジャマパーティなども、子どもたちにとっては貴重な体験の場になっています。
幼稚園・保育園の年中・年長さんが親御さんから離れて、スタッフと一緒にごはんを食べて、電車でお出かけして、お泊まりして。すべてが刺激的な体験なんですね。家に帰って「商店街にも行ったんだよ」って嬉しそうに親に伝えたりして。
みんなで稲刈りして脱穀したり、お米の麹からみそ造りをしたりと、食育も重視しています。
―鑑賞だけじゃなくて、体験そのものを大事にされているんですね
植原さん:今の子どもたちは学校が終わっても、塾とか習い事とかいろんなものに追われて、自由な時間がないですよね。
もちろん塾や習い事も大事だけど、触れて、見て、感じることで人間の土台をつくっていくこともとても大切だと考えています。
大人になってから体験しても、頭の中で点のまま。
でも子どものうちにいろんな体験をしておくことで、その点が別の点と繋がって線になり、また次の点と繋がって面になる。
そうやって感性もしっかり育っていくんだと思います。
「目に見えないもの」の価値を
―この何年かは、ライブや舞台が中止になったり、人が集まるイベントができなかったりしましたが、マイシアターさんはどうでしたか
植原さん:演劇も含め、さまざまなイベントを取りやめたり、子育てひろばもオンラインでイベントをしたりと大変でした。
その時期に退会した人も多くて、苦しかったですね。
会員が減っている理由は他にもあって、生の舞台を見たいという需要自体が減っているというのもあります。
スマホやネットから情報を得るのが主流になり、自分の興味のあるものだけで満足しているのかもしれません。
あと、子育てひろばをやっていて思うのは、この数年で夫婦共働きの世帯がぐっと増えたということです。
1歳くらいになったら働きに出るお母さんが増えて、ひろばに来てくれる2・3歳児が減っているんですね。
舞台鑑賞にしても以前は平日の昼間に母親同士で誘い合って参加してくれたり、お手伝いで入ってくれていた人も多かったんです。でも最近は、そもそも平日は仕事だし、土日は家族で過ごすという感じで、なかなか参加してもらえなくなっています。
全盛期は会員が1000人ほどいたのですが、今ではその半分以下になっています。これ以上減ってしまうと劇団を呼ぶのも難しくなるので、なんとか今の会員数を維持していきたいと思っています。
-時代とともにライフスタイルが変わってきているんですね
植原さん:想像力とか感性といった、目に見えないものに対する価値観が変わってきていて、嗜好品扱い、不要不急なもの扱いになってきているな、と思います。
効率が過剰に追求されて、支払った金額に見合うリターンを求める人が増えているように思います。でも体験で得られる価値って直接的なリターンは見えづらいですよね。本当はとても価値があることなのに。
ただその一方で、誰でも発信できる時代になったからこそ、オンリーワンなものやクリエイティブさが求められているとも思うんです。そういう意味では、厳しい時代ではありますが、可能性は感じています。
-これからどんな活動をしていきたいですか
植原さん:事業を拡大するというよりは、まずは現状の会員数やイベント規模を持続できればいいですね。
生の良さというのをしっかりと発信し続けていきたいです。
今は「子育て支援」というとこども食堂やヤングケアラーなど福祉寄りになってきているところがあって、でもそこに引っかからない親子はフォローしなくていいの?っていう疑問はありますね。
演劇も劇団四季のような有名な劇団なら高いチケット代でも人が集まるけど、それはほんの一握りで、知名度の低い人形劇にはお金が回ってこない。エンターテイメント業界の層が薄くなっていて、そこも心配です。
時代の変化に合わせて活動の形を変えながらも、マイシアター高松が設立当初から大切にしている鑑賞と体験の場を提供し続けていきたい。
人が集まりにくくなっている中でどうやって活動を持続させていくか、生の体験の良さをどう伝えていくか、今が踏ん張りどころだと思っています。
取材を終えて
住宅街にある一軒家から小さな子どもの声が聞こえてきた…と思ったら、そこがマイシアター高松でした。
おばあちゃんちに帰ってきたようなほのぼのした雰囲気のなかで、いろんな年代の子どもたちが自分たちの好きなことをしながら繋がっている、家でも学校でもない、まさに第三の居場所という感じがしました。
オンラインで何もかも課題解決できる時代。
課題解決できているから前に進めてはいても、どうやら私たちは何か大きな忘れ物をしているんだな…と植原さんのお話をうかがいながら強く感じました。
鑑賞も体験も「生の良さ」が必ずある。
その効果を一覧表にして見せることはできないけれど、きっと人間が成長するうえでとても重要なもの。
忘れ物してない?とそっと教えてくれて、それを伝え続けていこうという熱い想いがとても印象的でした。
応援しています!