聴かせて!【香川大学防災士クラブのわがこと
またまたおひさしぶりです!「聴かせて!みんなのわがこと」です。
4回目は香川大学の学生さんによる「防災士クラブ」の活動について伺いました。防災士という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃると思いますが、これからの時代にとても意義のある取り組みなんです。
Vol.4
香川大学防災士クラブ
防災に楽しく取り組む
ーお二人は香川大学の4年生なんですね。
山下さん:ぼくは林町キャンパスにある、創造工学部の防災危機管理コースに在籍してます。
西川さんは同じ創造工学部の建築・都市環境コースですね。ぼくがクラブの代表をしています。
西川さん:香川大学には学部に関係なく誰でも受講できる「全学共通科目」として「防災士養成講座」というのがあって、その受講生の中から希望者が防災士の資格を取るんです。
それで、資格を取ったうえで希望する人が「防災士クラブ」に加入しています。
ー大学全体で防災に力を入れてるんですね。メンバーは何人くらいいますか。
山下さん:2014年に設立されて毎年入れ替わりつつ、いま76名います。
西川さん:創造工学部の学生が多いですが、全ての学部から学生が参加しているんですよ。
ー活動について詳しく教えてください。
山下さん:1つは被災地でのボランティア活動です。2016年に発生した熊本地震で被災した地域に行き、仮設住宅の方と対話や交流をしています。2017年には、多度津町の災害ボランティアセンター運営にも参加しました。
また、2018年に起こった西日本豪雨では、愛媛県の西予市・宇和島市で活動しました。ぼくの故郷の宇和島市吉田町も被災していて、みかん畑などまだ復旧が続いている状況ということもあり、みかんの収穫作業を手伝うなど、現地のニーズに即した活動をしています。
もう1つは防災についての啓発活動です。
各地で出前講座を開いたり冊子を作ったり、大学祭での展示を通して災害の恐ろしさや防災意識を持つことの必要性を訴えています。
西川さん:「紙芝居プロジェクト」というネーミングで、地域コミュニティや小中学校に出向いての防災啓発活動も行っています。大学祭で行った被災体験の紙芝居をもっと多くの人に見て欲しいという思いから始めたんです。
紙芝居の上演だけでなく、避難体験、非常食クッキング、工作等の体験学習も行っています。
また、防災士クラブの活動ではないんですが、香川大学では災害時の避難所運営のサポートを行う「高松市消防団機能別分団・香川大学防災サポートチーム」という組織があります。
防災士クラブのメンバーも多くが参加するなど繫がりがあるんです。
ー活動をしているうえで、意識していることはありますか。
山下さん:防災というとどうしても堅苦しいイメージがありますが、楽しく取り組むことは意識していますね。
出前講座ではただお話しするのではなく紙芝居形式にしたり、非常食クッキングや避難所運営ゲーム(HUG)など、参加者が興味を持ってもらえるよう工夫しています。
西川さん:あと、コロナ禍で対面での活動が難しくなっていることもあって、Youtubeやinstagram、facebookでの発信も力を入れているんですが、ご高齢の方向けに「絵手紙プロジェクト」という活動を始めました。
メールやSNSが普及したおかげでネットを通していろいろな発信ができるようになりましたが、ご高齢の方にはなかなか届かないという課題があります。
地域のコミュニティ組織を通して地域のご高齢の方と絵や写真付きのお手紙で暖かみのある交流を広げ、そのやりとりのなかで防災への意識を持ってもらえたら、いざというときに地域のこどもたちと一緒に避難してくれたら、と考えています。
防災を「自分ごと」に
ー山下さんは大学に入ってから防災を考えるようになったんですか。
山下さん:いえ、小さい頃からなんとなく意識していました。
ーそれは何かきっかけがあったんでしょうか。
山下さん:そうですね・・ひとつは、父が土木業をしていることがあると思います。災害対策の工事現場で活躍する父を見て育ったので、人の命を救うという仕事に憧れがありました。
もうひとつは、今後数十年以内に高い確率で発生すると言われている、南海トラフ地震です。被害想定を見ていると、故郷の吉田町はかなり厳しいんです。平地が少なくて山の近くまで海が迫っているので、津波も心配だし、山が土砂崩れしたら逃げるのも難しい。たくさん人が亡くなるかもしれない、という不安がずっとありました。
そうしたなか、高校生の時に西日本豪雨がありました。自宅も床下浸水しましたし、身近なところが災害に遭ったことで、なんとなく考えていたことがはっきり形になった気がします。
防災士の資格を取ったのもその頃ですね。大学を出たら、ぼくも父と同じ土木の仕事につきたいと思っています。
ーそうなんですね。西川さんはいかがですか。
西川さん:私はもともとは災害にあまり関心がなかったんです。東日本大震災の映像がテレビで流れても、遠いところで大変なことが起きてるな、くらいだったんですね。
私の故郷は岡山県の真備町というところで、高校生の時に山下さんと同じく西日本豪雨で被災しました。知り合いの人が亡くなったり家が流されたりしたんです。
私の父は救急救命士の仕事をしていて、母は地元の消防団に入っていました。
災害のなかで懸命に人助けをしている両親の姿を見て、自分も困っている人を助ける側になりたい、こんな辛いこと、人生がいきなり終わってしまうようなことがもう二度と起きてほしくない、そう思ったんです。
もともと中学生の頃から、古民家に興味があったので建築の仕事に就きたかったんですが、いまは災害に強い家づくりをしたいなと思っています。
ー 同じ西日本豪雨で、というのも不思議な縁ですね。香川って比較的災害が少ないと言われてますが活動していて、まわりの人の意識はどうですか。
山下さん:いろいろな人とお話ししていると、危機感がないな、というのは正直感じます。「今まで災害が起こったことがないから」と言われることが多いですね。
そもそも、防災士クラブの活動に参加してくれる人は、もともと防災意識の高い人だと思うんです。
ほんとうに問題なのは、興味を持っていない人たち。その人たちは災害が起こったらどうするんだろう、と心配になりますね。
ー実際のところ、たとえば南海トラフ地震が起こったらどうなるのでしょう。
西川さん:「津波は来ない」と思っている人が多いかもしれませんが、昭和南海地震でも津波被害が発生していますし、最大クラスの場合6,000人を超す死者数が想定されています。
また、救援物資はなかなか届かないかもしれません。南海トラフ地震は被害範囲が広く、被害の大きいところに救援物資が集まる可能性が高くて、被害の小さい香川県は後回しになると思っていた方がいいです。
災害ボランティアも集まらないので、復旧も自力でなんとかしないといけない。
だから、災害そのものよりも、災害が起こった後のことをしっかり考えておく。最低3日間、できれば10日間は自力で生き延びられるよう、水や食料品を準備しておく必要があると思います。
ーうーん、なるほど・・・。災害が少ないことに油断せず、備える意識が大切なんですね。
防災への取り組みをずっと続けていきたい
ーメンバーが70名以上というのは、改めてすごいですね。
山下さん:2年次の防災士養成講座の中で、ボランティア活動の参加が必須になっているものがあります。
個人ではどうしたらいいか分からない人も多く、ボランティア活動に参加しているうちに活動が楽しくなってくる人もいます。
そして、その後は防災士クラブがその受け皿になっているところもありますね。
ーそうかあ。わたしたちが学生の頃はこんなこと考えてなかったです、もっと遊んでました(笑) これからの展望などあれば教えてください。
山下さん:4年間やってきて、活動の仕組みづくりはわりとできたかな、と思っています。
防災教室の運営方法も確立できたので、これから後輩たちには巻き込む人をどんどん増やしていってほしいですね。
もっと教室の開催実績を増やして、防災意識をどんどん広めていってほしいです。
西川さん:個人的には、就職先が東京の会社で全国転勤もあるので、香川にずっといるのは難しそうなんですが、防災士としての経験を活かす活動は、これからも続けていきたいですね。
取材を終えて
防災士になろうと思ったきっかけは、まさにお二人の「わがこと」からでした。
西川さんのお話で、豪雨災害の時に同じように被害を受けている地域でも、メディアでの取り上げられ方によって、救援物資の集まりに偏りがあったことを知りました。
だからこそ、自分で備えておくことの大切さを伝えたいと。
経験から伝えられる真実だなととても響きました。
「どんな風に備えてる??」
そんな話を身近な人たちからまず積極的に話題にしていきたいと思います。