知りたい日本料理3―箸置き
2006年5月24日 (水)
「箸」はたった2本の棒っ切れ(笑)なのですが、歴史が長いだけにいろいろな話がありますね。
「作法」とは関係有るような無いような話ですが、少しご紹介したいと思います。
<「箸置き」について>
実は、箸文化の国々にあって「箸置き」を使うのは、日本だけです―。
例えば中国料理などで、銀製や金属製のものが用意してある場合がありますが、あれはごく最近のことで、しかもどちらかというと、日本の「箸置き」よりも、洋食の「ナイフ&フォークレスト」を取り入れたものだといわれています。
では、なぜ「箸置き」が日本独自のものになったのでしょうか。
日本で「箸置き」が初めて登場するのは、古代までさかのぼります。
「箸」はもともと「神器」だというお話をしましたが、初期のピンセット状の竹折箸から、次第に二本の白木の箸に変っていきました。
神様への供物は台の上に載せられ、必ず箸を添えましたが、このとき台の中央手前には「耳土器」(みみかわらけ・みみがわらけ)と呼ばれる「耳」の形をした小さな土器が置かれ、箸はこの上に乗せられました。
神様がお使いになる箸が、台の上に触れないようにということで置かれるようになったこの「耳土器」、これが「箸置き」の原型といわれています。
口に入る箸先を卓上や膳に触れさせないようにする「箸置き」は、清潔感を尊ぶ日本人にとって使い勝手の良いものであり、また食事の途中は、箸をここへ戻すことによって、膳の上を乱すことがありません。
そのため様式と礼法にもかなうということで、多くひろまっていったと思われます。
そして時代が下るにつれ、「箸置き」はさまざまな素材、デザインで作られるようになっていきます。
今では趣味として、いろいろな箸置きを収集する方たちや、また自分たちで作るのを楽しみにしている方たちもいらっしゃると思います。
それぞれ会食の用向きによって使い分けて良いと思いますので、婚礼などのお祝い事には「結びのし」「扇」「ひょうたん」など、法事には「天目台付」「織部角型」など、また、季節ごとに「さや豆」「かに」「ぶどう」「独楽」なども、楽しい演出だと思います。
小さい子供さんには、「かに」や「たけのこ」などをつけてあげると喜ぶのですが、嬉しいあまりに飲み込んだり、また手に持っておもちゃにし、卓上や壁に打ちつけたりする場合がありますので、十分注意が必要ですし、あえてつけないこともままあります。
さて、一般的な「箸置き」の使い方ですが、卓上あるいは膳上の、手前中央よりもやや左よりに置かれます。
箸を置く時に、箸先が3cmほど左側に出るように置くのですが、以前にお話した「箸先五分、長くて一寸」の通り、ちょうど口に入れたり料理をつかんだりする部分が、膳につかないようにするわけですね。
食事を始める前に箸が置いてあるのはもちろんですが、食事中も箸を置く時にはここへ置くようにします。
そうすることで「渡し箸」をふせぎ、邪魔にならず、膳上が乱れないということになります。
袋入りの箸が出ていて、箸置きが無い場合は、箸袋を折って箸置き代わりにしても良いでしょう。
簡単に結んでも良いですし、折りたたんで作っても良いですね。
中には、とても手の込んだ折り方をして、美しい形を作る方もいらっしゃいます。
自分も昔いくつか教えてもらったのですが、一つしか覚えていません…。
いや、飲み屋でね、きれえなおねえさんにおしえてもらってそれでたくさんおさけをのんだのでそれでよくおぼえてな…ごふっ!げほげほげほ…。
―ただし、折敷や縁高の会席盆などの場合は、左端か右端にかけて置きますので、箸置きが無くても良い場合があります。
茶懐石の場合は特に簡素で清浄を尊びますので、利久箸は箸置きを省略して折敷(おしき)の縁にかけますが、右側にかけるか左側にかけるかは、流派によって異なります。
客は食事を終えると食器を始末し、いっせいに箸を折敷に落として、その音で水屋に控えている亭主に食事が終わったことを知らせます。
家庭では大げさになるので、箸置きを使わないほうが良いですか?というご質問を受けたことがあるのですが、けして大げさと言うことはありません。
むしろ、卓上を汚さないため、箸を大切にするためにも、ぜひ普段使いをしてみていただきたいと思います。
箸置きは、デザインによってちょっとした食卓のアクセントにもなります。
食卓は楽しいものであるべき、というのが私の考えですから、夏はガラスのもの、花の季節は小さな一枝などを使ってみたりしても面白いと思いますし、いっそデザインや形が揃って無くてもいいと思います。
みんながそれぞれ好きなものを使って、食卓に関心を向けることが出来るなら、それに越したことは無いのですから―。