M警部 証人尋問再現(統合版)
M警部は、大川原化工機事件の捜査本部の幹部(係長)で、捜査方針の立案、捜査の指揮を行いました。本件が警視庁公安部による事件の捏造だとすれば、M警部の責任は極めて重いといえます。
以下は、被告東京都、原告による各主尋問をベースに、原告主尋問、被告国反対尋問、被告東京都再主尋問、裁判所補充尋問を統合して、論点ごとに整理したものです。
各尋問及び証言は、当事務所の弁護士のメモをベースにしているため、一部再現に不十分な点がある可能性があることをご了承ください。
1. 導入
<東京都主尋問>
捜査全般の指揮を行いましたか?
→はい。
方針はW警視と協議して決めていましたか?
→はい。
外部に聴取する捜査員にどのような指示をしていましたか?
→聴取する場合は聴取項目を精査して理解出来るようよく聞くようにと指示した。
組織としての捜査方針と異なる意見の者はいましたか?
→いたと思う。
捜査メモはどのような目的で作成していたのですか?
→それぞれ異なる。
<原告主尋問>
あなたとW警視で捜査指揮していたのですね?
→はい。
聴取の指示は?
→同じ。
あなたの指示に基づいて各捜査員が行った聴取等の結果を、捜査メモの形でフィードバックを受けていましたか?
→はい。
捜査メモとして報告された捜査結果のうち、立件の際に用いる可能性のあるものについて、正式な報告書や調書の作成を指示するという流れになりますか?
→はい。
立件の際に使わないものは報告書にならず、メモとして残るということですね?
→はい。
例えば、温度測定実験についてお聞きしますが、何回か実験を行う中で、結果を見て立件に用いる価値があると判断したものについて、あなたから捜査員に指示をして、正式な報告書を作成させていたということですか?
→はい。
捜査報告書は、いつ内容確認しますか?
→まずドラフトが来て
報告書に記載される日付は、報告書の完成日ですか?
→はい。
2. 聴取
(1)メーカー、ユーザーからの聴取
<東京都主尋問>
メーカー、ユーザーからの聴取は何を知るために行いましたか?
→機器内で殺菌ができるかを知るため。
定置した状態で殺菌出来る可能性があると言ったのは?
→富士化学、森永、ミヤリサン、東和工業など、食品や薬品の会社。
洗浄せずに殺菌を行っている会社はありましたか?
→なかった。
洗浄を行わないで殺菌できるのではと言った会社はありましたか?
→はい。商用を考えなければ。A社(注:同社からの要望により匿名化しています)、藤崎電機。
洗浄はどういう趣旨と言っていましたか?
→コンタミ防止。
輸出許可申請はどこが出しましたか?
→藤崎電機
要件ハの該当性についてどう考えましたか?
→総合的に判断して聴取内容から乾熱殺菌可能で該当と判断。
<原告主尋問>
①メーカー
捜査初期段階で、経産省に、噴霧乾燥機の許可実績を問合せ、藤崎電機による許可申請が1件存在するのみであるとの回答を得ましたね?
→はい。
乙8の17(日本ビュッヒ捜査メモ)を示します。聴取日は2017年5月31日。日本ビュッヒは、スイスにある噴霧乾燥器のメーカー「ビュッヒ社」の日本法人ですね?
→はい。
この聴取で、日本ビュッヒは、ハの要件に該当するものは、蒸気滅菌性能を有するか、薬液消毒性能を有するものであるとの認識を示しましたね?
→はい。
乙8の18(GEAプロセスエンジニアリング捜査メモ)を示します。聴取日は2017年6月16日。GEAプロセスエンジニアリングは、ドイツにある噴霧乾燥器のメーカー「GEA社」の日本法人ですね?
→はい。
この聴取で、同社も、殺菌性能を有する機器は、CIP機能付きのものを指すとの認識を示していましたね?
→はい。
乙8の19を示します。徳島県の藤崎電機から、2017年6月23日に聴取したメモです。経産省から許可実績が藤崎電機の1件であると聞いて、聴取を実施することにしたのですね?
→はい。
藤崎電機が輸出許可申請をしていた理由は「規制内容が曖昧であり、経産省に問い合わせても明確な基準が示されなかったことから、熱風が出る以上殺菌できる可能性があると考えて許可申請をした」というものでしたね?
→はい。
そうすると、公安部は捜査の極初期の段階で、経産省が噴霧乾燥機の許可実績1件しかなくて、主要メーカーはそもそも付属のヒーターで殺菌することで該当とは考えておらず、藤崎電機についても経産省からはっきり判断基準を示されたものではない、という事実を把握していたということですから、ここで捜査を打ち切って、経産省の監督行政に任せようということにはならなかったですか?
→ならなかった。
経産省への許可申請実績が藤崎電機による1件のみであることや、日本ビュッヒやGEAプロセスエンジニアリングが、大川原化工機の島田さんと同様の殺菌解釈を示した事実を、塚部検事に共有していましたか?
→前者は多分共有した記憶。後者は覚えていない。
前者はいつ検事に伝えましたか?
→ガサの半年前ぐらい。
②ユーザー
噴霧乾燥機のユーザから聴取を行って、実際に洗浄工程を経ずに乾熱のみで殺菌しているユーザはいなかったということですが、警視庁はその事実を、塚部検事に共有していましたか?
→覚えてない。
検事としては実際にどう使われているか当然興味を持つと思うが、聞かれなませんでしたか?
→覚えていない。
(2) 有識者からの聴取
<被告東京都主尋問>
大学教授にも訊きましたか?
→はい。
殺菌の対象とすべき細菌についての聴取はしましたか?
→した。
熱に弱い菌はどれかについて何と言っていましたか?
→大腸菌やペスト菌だろうと。
生物兵器として使えるかについて大学教授の見解はどうでしたか?
→十分なりうる。
特定の菌を殺すことが「殺菌」に該当するだろうと言っていた人は誰ですか?
→四ノ宮教授、清水准教授、浦島教授の三人
噴霧乾燥器で細菌が重なっていても殺菌が出来るかについて訊いていますか?
→訊いている。
丙A139を示します。清水准教授から噴霧乾燥器を100度にすれば殺菌ができるという聴取をしましたか?
→はい。
噴霧後で実機で実験しなかった理由はなぜですか?
→岐阜大の田中教授からの指摘で、噴霧乾燥器で実験しても乾熱機で行っても結果が変わらないと言われたことと、実機を使ってそのような実験をすることは所有者の了承が得られなかったこと。
乙8の41を示します。芽胞菌以外は殺滅できる、という調書をとりましたね?
→はい。
大久保名誉教授の聴取で100度以上の乾熱で芽胞菌以外は殺滅できる、これも参考意見いですか?
→はい。
細菌の乾熱実験は誰にお願いしましたか?
→清水准教授、田中教授
丙A61を示す。清水准教授の乾熱実験を何回お願いしましたか?
→2回
丙A59を示す。これが2回目か。
→最初は100度でお願いしたが、より幅を広げる意味で次は90度でお願いした。
乾燥状態で実験をした理由は何でしたか。
→噴霧乾燥器では乾燥状態となり、乾燥状態では菌が強くなるから。
清水准教授と田中教授以外に実験を依頼したところはありますか?
→経産省の科警研。
丙A10を示す。何の菌と何の菌ですか?
→ペストと野兎菌
何度で死滅しましたか?
→75度。
3. 最低温箇所の特定
(1) RL5
最低温となる箇所はどの企業を参考に特定しましたか?
→A社(注:同社からの要望により匿名化しています)と藤崎電機。
丙A132を示す。A社から聴取した3箇所を最低温候補として調べましたね?
→はい。
その説明は合理的だと考えましたか。
→はい。
その理由は?
→技術者が詳しい人だし、他の企業の聴取とも一致した。
藤崎電機からはどういう説明を受けましたか?
→技術者が学術論文のコピーを見せながら流れを説明したから納得したと聞いている。
どこが最低温だと言われましたか?
→排風口の末端、バグフィルタの下部。下部に熱風が行かない可能性があると指摘された。
RL5の実験で最低温箇所は何カ所測りましたか?
→10箇所。
10箇所でバグフィルタ下部が一番低いと判断したのですね?
→はい。
(2) L8i
<被告東京都主尋問>
L8iはどこが最低温と考えましたか?
→バグフィルタがないのでサイクロン下部と排風口末端が最低温。
A社(注:同社からの要望により匿名化しています)の聴取報告書が7月なのは? L8Iの実験は5月15日だが。
→A社には何度も面談や電話で聴取していたが、聴取報告書を作っていなかったので、経産省に照会するにあたって改めて聴取に行って、報告書を作成した。
その前にもA社への聴取を何回か行っていますか?
→はい。
7月5日にも改めて聴取に行ったということですか?
→はい。
L8i、回収容器も参考で温度測ったのは、あなたの指示ですか?
→記憶がないが、捜査員が勝手に測ることはないので、W警視か自分。
明確な記憶はありますか?
→ない。
<原告主尋問>
L8iの測定箇所は、あなたの指示では何カ所でしたか?
→2箇所。先ほどの話にあったように、記憶にないものの、回収容器も指示したかもしれないが。
どこを測定するかの指示捜査上重要なはずです。指示とその結果を覚えていないのですか?
→内部ではないので重要ではないと思う。あくまで参考としてだと思う。
参考とはどう意味ですか?
→温度の上がり具合の参考。
これ以前にもL8iで実験していますか?
→はい。
丙14(5月15日の実験)が最後ですか?
→はい。
それ以前の実験でも回収容器を測っていましたか?
→覚えてない。
<被告東京都主尋問>
回収容器は内部ですか?
→いいえ。
なぜ?
→経産省の担当官からそう言われていた。
仕切りがないので内部にあたるように思うが?
→詳しくはないが、ダンパーという仕切りを設ければダダ漏れにはならないと聞いていた。
<原告主尋問>
回収容器にダンパーを付けられるという話が出ましたが、実験に使ったL8にダンパーは付いていましたか?
→覚えてない。
付いてなくても付けられるだろうということですか?
→はい。
ダンパーを付けるのに必要な作業が何か、分かりますか?
→分からない。
ダンパーを付けられるかについて、実際に確かめていませんか?
→確かめていない。
(3) 測定口
<被告東京都主尋問>
測定口が低くなるという話は逮捕前に認識していませんでしたか?
→一切認識していない。
測定口の温度が上がらないと認識したのはいつですか?
→愛宕署に転勤したあと、後任からきいた。
聞いた時、測定口はどの箇所と思いましたか?
→検討もつかなかった。
RL5は見たか。実験で間近で見たことがありますか?
→L8Iは捜索差押で展示場にあったのをなんとなく見ている。
捜索差押後の任意取調で、温度が上がりにくい箇所の指摘はありましたか?
→はっきり覚えていないが、上がりにくい箇所があっても時間をかければ殺菌できるという供述だったという記憶。
測定口という指摘は?
→測定口という言葉はない。
<原告主尋問>
大川原の従業員が、袋小路になっている場所は温度が上がりにくいと言ったことはあなたも認識していますか?
→覚えていない。
あなたの属する被告東京都は、大川原従業員3名が「袋小路になっているなど熱風の流れにくい箇所があり、これらの温度は温度が上がりにくい」と述べたことについて、認めていますが、あなた自身は知らなかったのですか?
→覚えていない。
捜査メモに残っているが、見ていませんか?
→見たかもしれないが、資料が大量にある。実際に実験した根拠のある話ではないので流してしまったのかもしれない。
<被告東京都主尋問>
(公安部内の部下から)上がりにくい箇所があるから測った方が良いのではという進言を受けたことがありますか?
→ない。
T警部補が測定口の温度を測った方が良いのではないかと言ったのに対し、あなたから事件を潰すつもりかと言ったことがあるか?
→言っていない。
どういう話をしたのですか?
→T警部補は、AGの「洗浄」(消毒の言い間違いか?)に拘っていた。自分は日本の法令通達に則らないと事件が潰れるので、それを説明した。
測定口の文脈ではないですね?
→測定口という話を聞いた記憶はない。
4. 経済産業省
<被告東京都主尋問>
実験が終わったあと、該当することについて経産省には照会しましたね?
→はい。
経産省との協議は何のために行っていたのですか?
→捜査関係事項照会をするに当たって、どんな実験・証拠が必要か意見をもらうため。
経産省と相談した際、午前中の証人から、経産省は当初消極的であったが、外事一課長から公安部長へ、公安部長から経産省へ働きかけて事態が動いたという証言が出たが、そのような事実はありましたか?
→ない
T警部補が勘違いしたとしたら、心当たりはありますか?
→考えが違ったので、指導を強くしたが、それぐらいしか思いあたらない。
<原告主尋問>
経産省との打合せ、2017年10月から行われており、2018年1月にはあなたも出席している。公安部解釈について意見をもらうために経産省に行ったのですね?
→はい。
経産省は、公安部の実験方法についてOKと言りましたか?
→断定ではない。もう少し裏付けを行った方が良いのではと。
もう少し裏付けとは?
→例えば、有識者に話を聴いたのであれば、別の人にもと。
1月以降、有識者からの聴取を増やしてないですよね?
→はい
芽胞菌である炭疽菌の殺菌実験を依頼した理由は?
→(無言)
この時点では経産省が芽胞菌を死滅できなければいけないと言っていたからではないですか?
→そんな記憶はない。
宇部フロンティア大学へ、芽胞菌の実験。それは経産省が芽胞菌でないと言ったからではないのですか?
→いいえ。より幅広く立証できるように。
2月8日。経産省の笠間課長補佐もいる面談、渡辺警視も出ているもの、ここで急に経産省の見解が変わったということはありますか?
→それはない。
<原告再主尋問>
1月16日に殺菌の解釈について1種類以上死滅できればいいと経産省が言いましたか?
→記憶にない。
公安部が殺菌の解釈を決めたのは2018年1月5日、これを持って1月16日に経産省に行ったのですよね?
→記憶にない。
5. 任意取調べ
<被告東京都主尋問>
経産省からの回答を受けて、大川原の従業員に取調べを行ったのですね?
→はい。
どういった供述が得られましたか?
→当社の噴霧乾燥器なら大腸菌なら殺菌できるという供述や、バグフィルタ下が温度が低くなるとの供述。輸出管理について、社として杜撰であった、該非判定するための温度検査も実施したことがないと。また、取調べの内容は全て会社に報告するよう言われていると。
捜査員に対して、大川原化工機の社員役員への取調べに関し、公安部解釈ではなく、ちょっとでも死ねば殺菌という考えを当てて供述を引き出すよう指示したことはありますか?
→一切ない。
大川原社長、島田さん、相嶋さんの取調べも実施しましたか?
→はい。
大川原社長は何と?
→自分は高度な殺菌という認識があった、しかし改めて考えると該当しますね、と。
共犯関係については?
→具体的には覚えていない。
相嶋さんは?
→この規制だと該当するので申請した方が良いのではという話もあった、しかし社長の意向で非該当にした、と。
島田さんは?
→三人で話し合って非該当にした、と。
これらの取調結果かあら、どう判断しましたか?
→三人とも少し違う供述。故意性、組織性、会社に報告させていることから、証拠隠滅のおそれがあると思った。
6. A警部補の取調べ
<被告東京都主尋問>
A警部補が違法な取調をしているという報告を受けたことはありますか?
→ない。
弁解録取書の破棄の報告は受けましたか?
→受けた。
あなたの認識ではA警部補はどういう経緯で破棄したのですか?
→弁録を署名指印した後に、島田さんが供述内容に異議があるので改めて作らないと納得しないということで、改めて作り、最初に作ったものは破棄してもらわないとという話だったから、島田さんの意見を受けて破棄の箱に入れてしまってそれをシュレッダーしてしまったという話。
話を訊いたのはいつですか?
→弁録を作成してしばらく経ってから。
7. 検事相談
主尋問なし