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最高裁 政令が法人税法の委任の範囲を逸脱して違法と判断 その3

前々回,前回の続きです。
ご紹介している判決は、最高裁第一小法廷令和3年3月11日判決です。
裁判所のホームページに公開されています。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/094/090094_hanrei.pdf

前々回は,本判決が「政令が法人税法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効」という珍しい判断をしたことを紹介しました。
前回は,事実関係についてまとめました。

今回は,判旨についてみていきましょう。

本判決は,法人税法24条1項3号の解釈に関する原審の上記判断は是認することができないとして,会社法における剰余金の配当について,「➀利益剰余金のみを原資とするもの,②資本剰余金のみを原資とするもの及び➂利益剰余金と資本剰余金の双方を原資とするものの類型が存在するところ,法人税法24条1項3号及び同法23条1項1号の規定の文理に照らせば,法人税法は,資本剰余金の額が減少する➁及び➂については24条1項3号の資本の払戻しに該当する旨を規定したものと解される」(強調は筆者)としました。

原審(東京高判令和元年5月29日)は,「資本剰余金及び利益剰余金の双方を原資として配当が行われた場合には,資本剰余金を原資とする配当には法人税法24条1項3号が,利益剰余金を原資とする配当には同法23条1項1号がそれぞれ適用されることになる」(強調は筆者)が,「この場合であっても,いずれの配当が先に行われたとみるかによって課税関係に差異が生ずるようなときには,例外的に,配当全体が資本の払戻しと整理され,同法24条1項3号の規律に服すると解されるが本件は上記の差異が生ずる場合ではないから,本件資本配当には同号が,本件利益配当には同法23条1項1号がそれぞれ適用されることとなる」としていました。

原審が上記➂の類型について,その原資がいずれかに応じ,23条又は24条が適用とされると解したのに対し,本判決は文理からその全体が24条1項3号に規定する資本の払戻しに該当すると解したのです。(ここまでは,上告人(国)側の解釈に沿うものです。)

しかし,これを前提にすると,本件の事実関係(7)➁のように,直前期末簿価純資産額<直前資本金額等の場合は,払戻資本割合が1となり,払戻資本対応資本金額>減少資本剰余金額 と算定される結果,本来は利益剰余金からの配当部分がみなし配当ではなく,有価証券の譲渡に係る対価の額に算入されることとなってしまいます。

本件の本質的な問題はこの点にありました。

この点について,本判決は,法人税法の仕組みに照らして検討しています。
法人税法が,資本等取引以外の収益の額を益金の額と定めていること(22条),受取配当は二重課税防止等の見地からその全部又は一部が益金不算入とされていること(23条及び23条の2),法人の財産について株主等から出資を受けた部分(資本金等の額)と事業活動から稼得した利益の留保部分(利益積立金額)をしゅん別していること(2条16号,18号及び同法施行令8条及び9条)などから,資本部分と利益部分をしゅん別するという基本的な考え方に立ちつつも,会社財産の株主への払戻しについて,その原資の会社法上の違いにより,利益剰余金のみを原資とする払戻しは資本部分が含まれているか否かを問わずに一律に利益部分の分配として扱い(23条1項1号),資本剰余金を原資とする払戻しは,資本部分の払戻しと利益部分の分配とに分け,後者を配当とみなすという仕組みを採っている(24条1項3号)と解しました。

そして,このような法人税法の仕組みに照らしてみると,法人税法24条1項3号は,利益剰余金及び資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当の場合には,そのうち利益剰余金を原資とする部分についてはその全額を利益部分の分配として扱う一方で,資本剰余金を原資とする部分については,利益部分の分配と資本部分の払戻しとに分けることを想定した規定であり,利益剰余金を原資とする部分を資本の払戻しとして扱うことは予定していないものと解されると判示しました。

そのため,24条3項の委任を受けて株式対応部分金額の計算方法について規定する法人税法施行令23条1項3号(現行は4号)の計算枠組みは,同法の趣旨に適合するが,直前期末簿価純資産額が直前資本金額等より少額である場合に限ってみれば,上記の計算方法では減少資本剰余金を超える払戻対応資本金額等が算出されることになり,利益剰余金を原資とする部分が資本部分の払戻しとして扱われることになるため,その限度において無効としたのです。

具体的には,「株式対応部分金額の計算方法について定める法人税法施行令23条1項3号の規定のうち,資本の払戻しがされた場合の直前払戻等対応資本金額等の計算方法を定める部分は利益剰余金及び資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当につき,減少資本剰余金を越える直前払戻等対応資本金額等が算出される結果となる限度において,法人税法の趣旨に適合するものではなく,同法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである」(本判決では強調部分は下線)と判示しています。

結論は原審も本判決も課税処分取消しで納税者の主張が認められていますが,法令の解釈が相違しているため,上告が受理され,判決が言い渡されたものと思います。めったにない「違法無効」の判決にもかかわらず,最高裁判決によくある補足意見や反対意見もなく,裁判官全員の一致での判決でした。

本判決が言い渡されるまで,解釈が確定していない状況にあり,実務上はクライアントから資本剰余金と利益剰余金の双方を原資として配当を行いたいと相談されたら、配当決議の日程を前後させるとか,議事の順番を明確にするなどして,不用意な課税処分を受けないようにと注目していた事案でした。一般的には,直前期末簿価純資産額<直前資本金額等 となるケースは少ないとは思われますが,本件のように当期中に多額の配当を受けるなどして払戻し直前の簿価純資産額が増加した場合など本判決に沿って政令が改正されるものと思われます。

本判決については,まだ評釈は見当たりませんが,第一審については,次の評釈があります。
(第一審の判示は本判決の判示と同旨でした。)
谷口勢津夫大阪大学教授「平成30年度重要判例解説 租税法2 みなし配当に係る委任命令規定の委任範囲逸脱による違法・無効」『ジュリスト』531号188頁
佐藤修二弁護士「租税判例速報 みなし配当に係る政令の定めを違法・無効とした事例―東京地判平成29・12・6」『ジュリスト』521号10頁

税理士 原木規江(はらきのりえ)

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和田倉門法律事務所
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