見出し画像

最高裁 政令が法人税法の委任の範囲を逸脱して違法と判断 その2

前回の続きです。
といっても、前回は判決の内容は2行で終わってしまっていました。
気を取り直して、紹介します。

ご紹介する判決は、最高裁第一小法廷令和3年3月11日判決です。
こちらも裁判所のホームページに公開されています。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/094/090094_hanrei.pdf

資本剰余金と利益剰余金を原資とする剰余金の配当がされた場合の課税関係が争われていた事件の最高裁判決です。
政令が法人税法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効という珍しい判断がされています。
とうところまでが前回でした。

事案の概要です。
被上告人Xは、その出資持分の全部を保有する外国子会社(KPC社)から資本剰余金及び利益剰余金を原資とする剰余金の配当(以下「本件配当」)を受け、資本剰余金を原資とする部分(以下「本件資本配当」)については法人税法24条1項3号所定の資本の払戻しに、利益剰余金を原資とする部分(以下「本件利益配当」)については同法23条1項1号所定の剰余金の配当にそれぞれ該当するとして、法人税の連結確定申告をしました。

これに対し、所轄税務署長は、本件配当の全額が上記資本の払戻しに該当するとして、法人税の更正処分をしました。

事実経緯をもう少し詳しくみていきましょう。
(1) Xはデラウェア州LLCのKPC社の出資持分の全部を保有していました。
(2) Xは,KPC社とその子会社から資金をXに還流させることを企図します。そして,KPC社に対し,総額6億4400万ドルのうち,資本の払戻しとしての1億ドルと,利益の分配5億4400万ドルに切り分け,分配を行うべき旨を連絡しました。
(3) これを受けて,KPC社はその子会社(Xの孫会社)KC社から利益の配当として6億4400万ドルの送金を受けました。
(4) KPC社はデラウェア州LLC法に基づき,KPC社の唯一の社員であるXとの間で,同意書及びこれに添付された各決議書を取り交わしました。同意書は,署名者であるKPC社役員らとX代表者が,添付の各決議書の採択に同意するという内容で,各決議書は,KPC社に対し,資本金の額を減少させ,その減少額を追加払込資本に振り替えた上で,追加払込資本の払戻しとしてXに対して1億ドルの分配を行うこと,また,留保利益からXに対して5億4400万ドルの分配を行うこと等の権限を付与することを内容としていました。追加払込資本はわが国会社法上の資本剰余金に,留保利益は同じく利益剰余金にそれぞれ該当します。
(5) XはKPC社から本件配当に係る6億4400万ドル(512億0444万円)の送金を受けました。
(6) KPC社は,本件配当に関連して,次の会計処理をしています。
➀ 資本金を追加払込資本(資本剰余金)へ振替
(貸方)資本 1億0381万ドル  (借方)追加払込資本 1億0381万ドル
 ➁ KC社から配当受領
(貸方)現預金 6億4400万ドル  (借方)配当収入 6億4400万ドル
 ➂ Xへ配当送金
  (貸方)追加払込資本 1億ドル (借方)現預金 6億4400万ドル
      留保利益 5億4400万ドル
(7) 本件配当に係るKPC社の状況は以下のとおりです。
➀ 直前資本金額等 2億1105万7771.56ドル>0
➁ 前期末税務上簿価純資産額 9768万4743.50ドル
➂ 減少資本剰余金額 1億ドル
➃ 払戻資本割合=減少資本剰余金額/前期末税務上簿価純資産額=➂÷➁=1
⑤ 払戻等対応資本金額 ➀×➃=2億1105万7771.56ドル
(8) Xにおける本件配当の計算は以下のとおりです。
⑥ (7)⑤のうちXの保有株式に対応する部分(100%)の金額
 2億1105万7771.56ドル
⑦ みなし配当 ➂<⑥ なし
譲渡対価の額 1億ドル(79億5100万円・本件資本配当の全額)
⑧ 配当直前のKPC社出資の帳簿価額208億6980万9622円
⑨ 有価証券譲渡損 ⑦-⑧=129億1880万9621円(備忘価格1円)損金算入
⑩ 本件利益配当5億4400万ドル(432億5344万円) 
外国子会社から受ける配当等の額に該当し,
410億9076万8000円(95%)益金不算入
(9) 上記の結果,Xの連結所得金額等は以下のとおりとなり,申告が行われました。
 連結所得金額  △149億6420万3607円
 翌期へ繰り越す連結欠損金額 295億2004万5412円

所轄税務署長はXに対し,本件資本配当及び本件利益配当の各効力発生日が同一であること等から本件配当の全額6億4400万ドルが資本の払戻しにより交付を受けた金銭に該当するとして更正処分をしました。

仮に,所轄税務署長の認定のとおり,本件配当の全額が資本の払戻しに該当する場合には,上記(7)(8)の計算は以下のとおりとなります。
➀ 直前資本金額等 2億1105万7771.56ドル
➁ 前期末税務上簿価純資産額 9768万4743.50ドル
➂ 減少資本剰余金額 5億4400万ドル
➃ 払戻資本割合=減少資本剰余金額/前期末税務上簿価純資産額=➂÷➁=1
⑤ 払戻等対応資本金額 ➀×➃=2億1105万7771.56ドル
⑥ ⑤のうちXの保有株式に対応する部分(100%)の金額
 2億1105万7771.56ドル(208億6980万9622円)
⑦ みなし配当 
本件配当の額 6億4400万ドル(512億0444万円)-払戻対応資本金額⑥
=4億3294万2228.44ドル(344億2323万6583円)
⑧ 配当直前のKPC社出資の帳簿価額208億6980万9622円
⑨ 有価証券譲渡損 
⑦-(本件配当の額-⑥)=40億8860万6204円(備忘価格1円) 損金算入
⑩ 外国子会社から受ける配当に係る益金不算入額
⑦×95%=327億0207万4754円 益金不算入
⑪ 連結所得金額 △69億0988万7134円   
繰越連結欠損金額 214億6572万8939円 
増差 83億8869万3246円
(※受取配当に係る増差額80億5431万6473円以外は争点となっていない関係会社の残余財産の分配に係る譲渡損失計上漏れ3億3437万6773円)
 
ということで,本日は事実関係までとなり,まだまだ続きます。

税理士 原木規江(はらきのりえ)

コンテンツをご覧いただき、誠にありがとうございます。頂いたサポートを励みに、有益な情報発信に努めてまいります。今後とも宜しくお願い申し上げます。