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「無職転生II」のオープニング演出を考える

 だいぶお話も進んでまいりました『無職転生II』
 本編のお話の方は相変わらず焼きもしきながらおもしろく続いています。今回は本編ではなく、オープニングの映像演出について解説してみたいと思います。
 ただし、僕は原作もコミカライズもまったく読んでいませんので、ぜんぜん違うところがあったらあしからず。だってストーリー展開を純粋に楽しみたいじゃん。

 さて、1期と違い固定OPがついた『無職転生II』ですが、第1話からではありません。固定OPがついたのは第5話からでした。これは物語がラノア魔法大学編に入ったから。OP内容もそれに準じた内容ですからね。

 まずは冒頭、開いて空っぽのトリカゴが映ります。今回のOPでは鳥がキーワードですね。
 口の開いたトリカゴは自由、解放を表します。だからこの物語はいろんなものからの解放を描いていくのかも知れません。
 だって第4話まではルーデウスくん、いろんな意味で解放できてないですからねえ……。

 空っぽのトリカゴは自由、解放を表しますが、一方で「置き去り」「残された者」の象徴でもあります。
 その証拠に、トリカゴの傍には青、赤、緑の羽根が残っています。これはもちろん、青=ロキシー師匠、赤=エリス、緑=シルフィを表していますね。
 みんな形と理由こそ違え、ルーデウスのもとを去ってしまった人たちです。ルーデウスの心はずっと彼女たちと離れてしまったことにとらわれているんですね。

 目を覚ましたルーデウスが伸ばした手を握ると、赤い羽根が散ります。これはもちろん、もう手が届かない、それも最悪な形で離ればなれになってしまったエリスとの別れ。元34才引きニートDTの心に与えたダメージが計り知れないほどの分かれ方でした。

 続いて、肩を落としてまだ薄暗いラノアの街を歩くルーデウス。まわりには誰一人いません。彼の孤独を表しています。
 しかし彼の上に広がる空は広い。目を覚ましたシーンの最後に身を起こすこともあって、完全にふさぎ込んでいるわけではない、まだ動き出す、解放に向かうイメージがあります。
 そんな彼に道を示すように飛んでいく青い小鳥、ロキシー。飛んでいった先にはラノア魔法大学の校舎が。ラノア魔法大学はロキシーが盛んに入学を進めていたところですね。その方向から差す光は、間違いなく希望の光でしょう。これから学ぶラノア魔法大学で、彼の人生には光が差すと。

 校舎内、廊下を進むルーデウスですが、このとき彼は右向きに進みます。演劇、演出論として、左向きは出発、右向きは帰還という原則があります。この原則に則ると、ルーデウスが右に進んでいるのは帰還、前向きに、ひたむきに努力していた、「この世界でなら、こんな俺でもやり直せるかも知れない」と思っていた自分へ、希望に満ちていた自分への帰還を意味しているのではないでしょうか。
 ただし、その道が楽なものでないことは廊下の窓や床に映し出された映像から察せられます。特に床中央で大写しになる血に汚れたルーデウスの手。これまでと、そしてこれからの苦難を示すものです。

 そのあとは短いカットの連続で登場人物のチラ見せがありますが、ここで注目したいのは3つ。
 ひとつは奴隷の女の子ジュリエット。薄暗い牢獄に閉じこめられている彼女に光が差します。もちろん、解放のイメージですね。
 一方でナナホシ、黒髪の少女が壁に描かれた魔方陣に寄りかかっています。壁というのは困難、妨げを表します。1期ではいきなり出てきたわけのわからなん敵(実際には冒頭から出ていた)だった彼女ですが、彼女も彼女で困難と絶望を抱えているのでしょう。
 みっつめはオマエはいったい幾つなんだエリナリーゼとクリフ。訳ありビッチのエリナリーゼに想いを寄せるクリフですが、このときの二人の立ち位置、向きに注目です。
 エリナリーゼは右側に立ち左を見ています。クリスの方は左に立ち右を見ています。
 やはり演出の基本として、右側は強者、優位側、左側は弱者、不利側を置くというのがあります。この点でも冒険者としても経験でも(おそらく年齢も)圧倒的に上のエリナリーゼに対してまるで釣り合わないクリフですから、こういう位置関係になります。その証拠に、クリフくん泥だらけですしね。でも顔は上を向いていますよ。少しうつむいたエリナリーゼと視線を合わせるかのように。

 続いて、ルーデウスがらせん階段を上るシーン。途中に赤い小鳥が止まっていますが、これはもちろんエリス。なんてったって1期の最後でエリスと二人で大人の階段を上っていましましたからね。しかしこの小鳥、ルーデウスとは別の方向を見つめています。これも二人が同じところを目指していない事を示していますね。

 次のシーンではルーデウスが薄暗い教室にひとりぼっちで座っています。まるで自分を抱きしめるような姿勢で。こういう姿勢は孤独や閉じこもった気持ちを表します。
 壁からたくさんの目が見つめていることからもそれがわかりますが、その中にはルーデウス自身の目もあります。また壁の各パネルの枠が光っているのも牢獄のようにも見え、その印象を強くします。
 するとそこに飛んでくる緑色の小鳥。シルフィですね。まだ正体に気づいていないけど、ラノア魔法大学で一緒に過ごすシルフィ。さっきの赤い小鳥と違い、ルーデウスと同じ方向を見、飛んでいきます。最初の青い小鳥同様、まるで導くように飛んでいきますから、これからシルフィがルーデウスが進む道しるべになるのでしょう。
 ちなみにちょっとわかりにくいですが、緑の小鳥が飛んでいくときにはアリエルとルークのあいだを抜けていきます。
 小鳥に導かれていった先は開きかけた緞帳。向こうから光が漏れています。途中にあった奴隷の女の子ジュリエットに光が差したように、今度はルーデウスに光が差します。
 カメラが回り込んで、ここだけルーデウスが左向き、すなわち旅立ちや前身を表す構図になります。この辺の詳しくは僕のポッドキャスト番組『そんない雑貨店』で。

 光の差す方を見るルーデウスの手には、緑の羽根があります。最後に残ったのは緑の小鳥だったんですね。
 ここで、ルーデウスは目を覚まします。そしてOP通じて初めての笑顔。子小間で来て、ようやく吹っ切れた、前へ進む覚悟が出来たんでしょう。
 身を起こすルーデウス。そこはラノア郊外に泊まっている幌馬車の上。もちろん新しい旅立ちの暗示です。
 手前にある白い百合派なんでしょうね。白百合は昔から純潔、無垢、高貴などを表し、聖母マリアの象徴でもありますから、ルーデウスにとってシルフィがすべてを受け止めてくれる聖母マリア的な存在だという意味でしょうか。
 確かに第0話のファーストショットも白百合だったしなあ……。だけど高貴なる変態ことアリエル様もちょっとユリっぽいところがあるしなあ……。

 さて、ここまでで重要なシーンを割愛してるんですが、それは最初に映る真っ白い少女。ベッドに横たわってルーデウスと手を取り合うんですが、これ誰でしょう?
 髪型的にエリスじゃないし、足癖もエリスっぽくないですよね。白ということからやっぱりシルフィじゃないでしょうか。『無職転生II』のシルフィは髪が白くなっていますし、OPラストでも白い小鳥が飛んでいくんですよね。これは白髪のシルフィを表しているんじゃないでしょうか。

 などということを考えつつ、『無職転生II』のOP演出を振り返ってみました。書きながら気付いたこともあるので、確認したら上記のポッドキャスト番組『そんない雑貨店』でお話しします。
 たぶん、9月20日(水)くらいに配信になるかな。


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