ハンス 〜存在しなかったAIストーリー〜
一 人類の随伴者
「他にご用件はございませんか、奥さま」
ティーカップをベッドトレイに置いて、端整な顔立ちの青年はいった。年齢は二十代後半くらいだろうか。シミひとつ無い真っ白なスラックスにこれまた白いサマーセーターを着て、髪は清潔感あふれるクルーカットに刈り上げている。
「いいえ、けっこうよ。ありがとう」
介護用ベッドで上半身を起こしたまま、奥さまと呼ばれた女性は会釈してこたえた。
「ただ奥さまはやめてちょうだい。なんだか自分が年寄りになったような気がするわ」
女性