見出し画像

[勝手に芥川研究#1&推薦図書3選] ~文豪社長になる等

芥川龍之介がらみの本で最近読んだものでおすすめ本を紹介します。

文豪社長になる


文豪社長になる

芥川の盟友にして文藝春秋の創刊者、菊池寛を主人公にしたノンフィクションです。菊池寛を取り巻く人々と文藝春秋という雑誌の成長と挫折をメインに描かれています。作家としての菊池寛はほとんどでてきません。現代ではなかなか想像しにくいですが、大正時代には文芸同人誌が多くあり、同人誌といえども格がありましたので、新しく立ち上げて人気作家を集めて売れる雑誌を作るのはなかなか大変です。これを読むと菊池寛という人物は社会部記者から作家になり流行作家になったのですが、向き不向きでいえば作家よりも親分肌の社長(放漫経営のワンマン社長ですが)だなと思います。

特に前半の芥川龍之介や直木三十五との出会いと別れは涙なくして読めません。芥川と菊池は一高時代からの長い付き合いですが、菊池は社会部記者の仕事がメインで、作家としてはぱっとしなかった彼を、先に流行作家になった芥川が格上雑誌を紹介したり、職業作家として独立を誘ったりしたおかげで、菊池寛は大躍進をとげます。そして文藝春秋を創刊し、芥川に巻頭を書かせたり、座談会に呼んだりします。立場逆転ですね。わたしは芥川は交流関係こそ多いけれども雑誌の座談会に好んで出席するような人とは思えないし、時期的にも精神的にどん底状態だったので、それでも文藝春秋の座談会に3回も出席したのは友人の菊池寛から頼まれたからだと思います。そういう人です。それからまもなく芥川は自殺しますけれども。
そんな芥川に対する菊池寛の感謝の念はあまりあるわけです。芥川賞を設けたのはひとつの現れですね。芥川が菊池寛を表舞台に上げてくれたようなものだから。彼がいなければ文藝春秋はなかったでしょうから。
直木賞のもととなる直木三十五についてはわたしは詳しくありません。ただ、この本を読む限り、大衆小説の分野の芥川と言ってもよいほど文藝春秋に貢献したひとであることがわかります。
そして戦争。
純粋に文学を愛しリベラルである作家たちが士気高揚の道具にならざるをえない悲哀。それを飲み込んで雑誌を続ける菊池寛。
そして終戦、廃刊。
しかし友人たちの力によって復刊。
菊池寛の物語は突然幕切れになりますが、文藝春秋、そしてそれを支えた人々の生きざまがうまく描かれた傑作だと思います。

えへん龍之介


芥川フェチの松田奈緒子さんの漫画です。
萩原朔太郎、室生犀星との出会いから震災までのエピソードをときにはコミカルに、ときには切なく描いた傑作マンガです。
芥川と朔太郎との出会いは朔太郎の追想どおりで、その他の内容も資料に基づいて忠実に書かれていて(もっとも家の中の事情についての真偽は断言できませんが。芥川は夫人と二人で暮らしていた鎌倉から田端に引っ越してきたことを後悔してると言ったことがあるので大体はあっているのでしょう)、面白く読めます。朔太郎と室生犀星がよく出てくるので、彼らのファンも楽しめるのではないでしょうか。
ここでの芥川は厭世的なのは当然のこと、精神的にまいっているしクスリまみれでもう死に近いことがわかるのですが、それでも変わらず他人に優しく礼儀正しい。そして

わたしは良心を持つてゐない。わたしの持つてゐるのは神経ばかりである。

侏儒の言葉

とにかく神経質すぎるんですね。菊池寛のようにもっと大雑把な人間だったら、周りに気遣いが過ぎることもなかったでしょうし、自殺なんて考えなかったでしょう。だけど、きっとそれだと彼の繊細な小説は生まれなかったんでしょうね。因果だと思います。
いずれにしても朔太郎、室生犀星と出会ってから自殺直前までの交流を中心にサクッと読みたい方にオススメの漫画です。
なにげに当時台頭してきた社会主義運動や大杉暗殺などに触れているのもナイスです。芥川最終期の漫画だから前の時代も書いてくれないかな?
そういえばこの方、「重版出来!」の方なんですね!ドラマ面白かったです。

蕭々館日録


蕭々館日録

これは随分前に単行本で読みました。今は文庫版が出ているので再読しています。芥川、菊池寛、小島政二郎をモデルにした3人の作家を中心とした高等遊民たちが日夜蕭々館(小島の家の扁額に書かれた名前)に集まって日々交流する様子を小島の娘である5歳の「麗子」の目を通して描かれる物語です。終わりつつある大正時代、当時の文壇や高等遊民の空気感を直に感じ取れる逸品です。あくまでフィクションとしていますが、実在の人物や題材が出てくるし、芥川のモデルである九鬼の苦悩、次第に闇にのみこまれていくさまなどを、彼を愛おしく思う5歳の麗子の通じて大正文学さながらの美しい文章で綴られる物語は、芥川ファンはもちろんのこと、当時の文壇や大正浪漫好きの方にはおすすめしたい逸品です。
ちなみに語り手は5歳ですが、語り口が全然5歳ではありません笑。
マルキシズムやら何やら難しい言葉がポンポン出てくるし、大正時代はよくカタカナ英語を使いますが、九鬼さん(芥川)のアトモスフィアに色気があるのなんのと大人びたことを言うし、おそらく作者の代弁者でしょうね。
泉鏡花賞を受賞した小説なので大正時代の文学を思わせる難しい言葉も結構出てくるのでスラスラというわけにはいきませんが、久世さんの芥川愛が伝わってくる傑作なのでぜひ文章ごと味わいたい作品です。
久世光彦さんには「乱歩」をモデルにした作品もあってそちらも名作なのですが、わたしは積読状態。いつ読めるやら。

以上、芥川龍之介関係の3冊紹介でした。
活字が苦手な方は漫画だけでもオススメですよ!


いいなと思ったら応援しよう!