「にゃんとなく」~青ブラ文学部参加ショートショート
「猫がにゃんとなくとは限らない」教授は言った。
「そりゃそうですね。にゃおとかみゃおとか鳴き方は色々あるでしょう」准教授が答えた。
殺風景な狭い部屋には二匹の猫がいた。雌のトラ猫教授と雄の黒猫准教授がサテンのカーテン越しに薄日が差す窓際の円卓の上で対峙していた。
「そういう意味じゃないわ。わんと鳴いたり、うげえと鳴いたりすることもあるし」教授は鼻をひくひくさせながらじろりと准教授を睨んだ。「必ずしも『鳴く』とも限らないじゃないでしょう。おいおい『泣く』かもしれないじゃないの」
「ほう、確かに」准教授は髭を震わせて答えた。目をギラギラさせて教授の様子を伺っている。「しかしさすがにおいおい泣くことはないんじゃないですかね。まるであの愚かな人間のように」
「ああそうね。さすがに人間みたいに泣きたくないわね。くだらない発想だったわ。ただわたしが言いたいのは、猫だって泣くときはどんな悲鳴を上げるかわからないってことよ」教授は少し後ずさりしながら言った。尻尾が立っている。
「なるほど。末期の悲鳴ですね」准教授はにやりと笑みを浮かべると瞬時に教授に向かって跳躍した。「それでは試してみましょうか!」
教授は備えていたものの、テーブルの上の消しゴムに足をとられて逃げ遅れ、尻尾を准教授に押さえられてしまった。准教授がお尻をがぶりと噛む。
「ぎょえ!」教授は泣いた。身をひねると逆襲だといわんばかりに、准教授の背中を引っ掻いた。「うげっ」准教授が唸った。
「ぶはっ」教授が叫ぶ。
「おぎゃ」准教授が呻く。
「あちょ」教授が吠える。
戦いは数分続いたが、しつこい准教授は教授から離れることなく、ついには教授の背後に回り込み首根っこを押さえた。
「捕まえました」准教授の青い瞳が怪しく光る。
そして首筋の匂いを嗅ぐとそっと甘噛みした。
「にゃん」教授は甘い声で鳴いた。目が恍惚としている。
「やっぱりにゃんと鳴くじゃないですか」准教授は優しく笑った。
それから二匹は、狭い部屋で薄日の中、延々と愛し合った。
本作は青ブラ文学部のお題「にゃんとなく」の参加作品です。いつも企画ありがとうございます。